2022年11月12日土曜日

ゲーム学における最大の論争(下): ゲーム産業団体のグローバル化

主筆の山根です.
 過去記事「ゲーム学における最大の論争(上)」では,Gaming disorder(ゲーム障害,ゲーミング障害,ゲーム行動症などと訳されるが公式訳は未定)の決定的な根拠が立証されないままICD-11に収載されたこと,そして立証する者がいないまま専門家の間で統一見解が出なかったこと,それを受けてアメリカのゲーム業界団体では重要論文を速報しながら根拠にもとづく議論を求めたり,ゲーム開発者コミュニティ内では心理学博士人材が情報共有を進めていたことを紹介しました.今回は,さらに最新動向と日本の状況について展望と提言を行います.

日本がゲーム産業の国際的ネットワークから無視され始めている?

 今月2022年11月2日に,世界のゲーム業界団体がGlobal Video Game Coalition(GVGC)を立ち上げた.プレスリリースは以下の文章ではじまっている.

2022年5月1日日曜日

GDC22アカデミックレビュー: ゲーム開発者の過去と未来

アカデミック・ブログ主筆の山根です.
毎年サンフランシスコで開催されるGDC(Game Developer Conference)は,世界最大のゲーム開発者のカンファレンスです.あまりにも大規模なのでどのセッションが「当たり」だったのか1社だけではカバーできず,企業を超えた情報交換も生まれています.IGDA日本が開催してきた現地でのパーティーや国内でのGDC報告会もそうした情報交換の場ですが,今年もコロナのために開催できません.そこで本稿では,情報交換をしていないやや特殊な視点から,「他ではできない体験」という観点から私的なふりかえりをおこないたいと思います.

今年のGDC22は,3月にサンフランシスコ現地開催とオンラインでのバーチャル開催とのハイブリッド形式で開催されました.数百件のセッションの中でも話題を集めたものは,公式ウェブサイトで紹介されています(Part1, Part2).また日本国内でもツイートまとめが作られたり,今年は過去のGDC参加者が新たなメタバース系に注目したGDC報告会も開催されました.本稿ではこれらの範囲をすべてカバーすることはできないので,国際学会でもIT系カンファレンスでもない,GDCならではの発表という観点から2つのセッションを選んでみます.

2022年1月3日月曜日

2021アカデミック・レビュー: ゲーム学における最大の論争(上)

アカデミック・ブログ主筆の山根です.あけましておめでとうございます.

本サイトはゲーム研究・ゲーム教育について情報発信を続けてきましたが,2021年の更新は停滞していました.これはコロナ禍によってIGDA日本の勉強会(および懇親会)が開けなくなったことも大きいですが,本アカデミックSIGにとっては,執筆以外の活動が増えた1年でした.具体的には,「gaming disorder」(ゲーム症,ゲーム障害,ゲーミング障害,執筆時点で公式日本語訳は未定です)についてウェブでの情報発信よりも直接的な社会的活動に終始した1年でした.2021年を振り返るこの機会に,ゲーム研究で最も問題となった概念の一つであるこの議論の経緯をまとめてみます.

2021年,IGDA日本アカデミックSIGの名前を出しての著述活動は以下の通りです.