2009年8月27日木曜日

学術出版物近況: IEEE (2009年春夏)

今回は国際学会の中でも特に会員数が多いIEEEの定期刊行物からデジタルゲームに関する記事や論文を紹介します.

IEEEはいくつものソサエティにわかれており、各ソサエティがさらに複数の分野で論文誌と会誌を出版しています。この中でゲーム関連の研究は各分野に分散しており,すべてを一人がカバーするのは無理です.ここでは私が見かけた範囲で,2000年春夏期のIEEEのゲーム関連の読み物を紹介します.(IEEEの雑誌は各地の大学図書館でも購読しているので,図書館での取り寄せも比較的容易という利点もあります.)



(1) IEEEのソサエティの一つComputer Society(IEEE-CS)では,傘下の分科会の会誌の記事を共通のテーマでピックアップして、ソサエティ全体を見渡す「Computing Now」というダイジェストを毎月発行しています。その3月の共通テーマが「シリアスゲーム」だったので紹介します。
たとえば,
http://www.computer.org/portal/cms_docs_cga/cga/content/cga_graph_6_08.pdf
は,IEEE Computer Graphics and Applications誌に寄稿された記事で,Games for Health の総帥,Ben Sawyer によるシリアスゲーム動向の解説です.
この他にも,IEEE Intelligent Systems誌, IEEE MultiMedia誌からもゲーム関連記事をピックアップして紹介しています。専門家はどうしても専門外の情報にはうとくなるので、こういう分野横断企画はありがたい。

(2) 次に,初夏から夏にかけての出版物.セキュリティ分野の学術記事を集めた IEEE Security & Privacy誌の May/June 2009号は,特集が「Securing Online Games」,オンラインゲームのセキュリティを特集してます.
編集者の序文と一部記事だけ無料で見れます.
アジアからの貢献が少ないのが残念.オンラインゲームのセキュリティといえばアジアはかなり材料豊富だと思うのですが(^^;,やはり研究開発の裏づけが弱い,

(3) IEEE-CSでもっとも多くの会員に読まれている IEEE Computer 誌の July 2009 号は,視覚効果特集.映画からゲームまで幅広い内容ですが,ゲームではUbisoft Shanghaiの人がEndWarの解説をしています.非会員でも編集者の序文とデモ映像だけ無料で見れます.

ここまでは会誌(Magazine)の記事ですが,論文誌(Jouranal, Transaction)にも目を向けてみましょう.こちらはページ数も多く,内容も一般向けの解説はなく,専門的です.

(4) 「IEEE Transactions on Computational Intelligence and AI in Games
http://ieeexplore.ieee.org/servlet/opac?punumber=4804728
これは今年創刊され,創刊号と創刊第2号が出ています.本文はIEEE会員のみ無料.非会員は編集者の序文と一部記事だけ無料で見れます.AIはIEEEが不得手としてきた分野の一つで、AIのすぐれた論文は他学会で発表されてきました。そのIEEEでAI、しかもゲームに特化した論文誌ができたのはこの分野の勢いを示しています。しかし予想したよりはゲームAI技術の記事は思ったよりも少なく,囲碁とかゲーム理論とかの論文もあり(それなら既存の学術誌でもよいのでは?),もう少し様子を見てみたいと思います.

(5) IEEE Annals of the History of Computing誌はコンピュータの歴史研究の老舗です(日本からは喜多千草さんが編集委員に入っている).そのJuly-Sept. 2009は,コンピュータゲームの歴史特集.
非会員でも編集者の序文だけ無料で見れます.
IGDA Game Preservation SIGのリーダーでもあるStanfordのHenry Lowoodがゲストエディターと寄稿の二役をやっており,またアドベンチャーゲームの歴史で博士号をとってMITに就職したNick Montfortやその共同研究者のIan Bogostの名前もあり,単なるベテランの昔話としての歴史ではなく,若手中堅のゲーム研究者が自らの視点でゲームの歴史を書くというパワフルなものになっています.これはすごい.

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