2019年6月7日金曜日

DiGRA2019 in 京都 勝手にプレビュー(前編)

DiGRAが再び日本で開催

DiGRA(Digital GamesResearch Association)の世界大会「DiGRA2019」が今年2019年8月に京都で開催される.
「今回はDiGRAの日本語ニュースが少ないなあ」と思われる方も多いかもしれない.たしかに初めてDiGRA世界大会が日本で開催された前回の2007年には日本語ウェブサイトをつくったり、非会員にも日本語ニュースレターを配ったり、CEDECと同時開催にして基調講演をCEDEC受講者特別価格で提供したりした.これは多くの国内関係者の尽力によって可能になった.


 たしかに当時の日本では、ゲーム研究の国際会議に世界の研究者が集まるというのは一般の常識を超えており、日本語での説明がないと意味不明だった.なにしろゲームを学術的に研究するということ自体が疑問視されていた時代である.ゲームを学術的に学び、英語論文を書いてゲーム研究者による査読を受け、ゲームの研究で博士号を授与される、という世界が存在することは国内の想像を超えていた.当時の対談記事「発展するゲーム学」はその様子を伝えている.(この記事には伝統的な大学をもとにしたヨーロッパ発祥のDiGRAとアメリカ発祥のゲーム開発者教育機関という二大勢力が説明されており、前者のDiGRA世界大会が今年で2度目の日本開催となり、後者はIGDA教育SIGがはじめたGDCの教育サミットやFDGといったコミュニティを形成している.)
 だが、2007年当時、世界大会の開催と日本国内のゲーム研究シーンの立ち上げという二重のミッションを遂行したことは、若手研究者を消耗させてしまった.それに比べて今回の開催スタッフは国際会議の中身に集中しているように見える.そこで当アカデミックブログとしては、運営スタッフでなくてもできるような、外野の立場からの英語プログラムのみどころの紹介をしていきたい.

勝手にプレビュー前編: 同時開催イベント紹介

本記事は前編として、国際会議の本体ではなく、同時開催イベントを紹介する.

ゲームキュレーターによるゲーム展 「Blank Archade」

まず、ゲーム展示Blank Archade.これはDiGRA2007にはなかった、DiGRA2014からはじまったイベントだ.前回DiGRA2007では学生や研究者の実験作の展示をせず、学者の発表に特化していた.しかしゲーム研究コミュニティは年々拡大していき、美術館の学芸員に相当するゲームのキュレーターが研究コミュニティに加わる.さらにDiGRA2016 in Scotlandではヨーロッパ発祥のDiGRAと北米発祥のFDGが同時開催されるなど、DiGRAのコミュニティは10年前よりも拡大している.このBlank Archadeではキュレーターが図録を作るなど美術館の展示を意識した展示が行われ、ゲーム研究コミュニティの新境地を示している.

大会前ワークショップから

初日には外部団体が開催するワークショップの募集が行われ、多くの企画が予定されている.これらは本体の論文発表セッションのような査読プロセスは決まっておらず、扱える範囲が広く、参加者が作業したり講習会をしたり、テーマを決めてより集中的な議論を行うこともできる.DiGRA2019のワークショップで詳細が明らかになっているのは以下のとおり.

1時間ゲームジャム

「One Hour Game Jam & Bitsy Tutorial」
ゲームジャム研究で博士号を取得し、エクストリーム系ゲームジャムや原住民ゲームジャム、ハードコアゲームジャマーなどゲームジャム研究をリードするFinnish Game JamのKultima女史らによるワークショップ.

ゲーム教育の空間設計ワークショップ

「Making Space for Inclusivity: Code/Spaces in Informal Games Education」
学校の教室でゲームを教えるのではなく、誰もが参加できるゲーム教育の場をつくるためのグループディスカッション.

ゲーム分析ワークショップ

「Game Analysis Workshop」
文学研究におけるサイバーテクスト理論で知られるEspen Aarsethらのワークショップ.

博士課程院生の手引き

「“Ex-PhD-ition” – Gameful Support for the PhD Student’s Journey」
これは博士課程の院生や指導教員を対象としたセッションで、国際学会では、博士論文のトピックや研究の進め方、キャリアプランなどの助言をするとともに、旅費の支援までやっており、日本国内では得られない支援を受けることができる.たとえばが参考になる. かつてDiGRA2007では筆者がユールとアドバイザーをつとめたが、こうしたトップレベルの支援には程遠かった.今回はトップレベルの若手博士人材育成に期待している.

ゲーム教育ワークショップ

「Teaching Games: Pedagogical Approaches」
提案者が世界のゲーム教育機関のトップ揃いで、これだけで国際会議ができそうだが、これは米のゲーム教育機関が加盟するHEVGA(全米ビデオゲーム高等教育連合)が主催するワークショップなので、HEVGA役員が名を連ねている.なのでこのゲーム教育機関オールスターがDiGRAに結集するわけではないと思う.

位置情報ゲーム研究ワークショップ

「The Future of Location-based Gaming Research workshop」
これはゲーム研究の中でも特に位置情報ゲームの研究について集中的に議論するワークショップだ.企画提案は、フィンランドの研究拠点CoE (The Centre of Excellence in Game Culture Studies)に所属するタンペレ大学の研究者グループと、日本各地の研究者グループ.日本の研究コミュニティが企画提案に関わるようになったのは前回からの大きな進歩だ.

ダイバーシティ(多様性)ワークショップ

「Diversity Workshop: Social Justice Tactics in Today's LudoMix」
こちらも各地域の研究者によるワークショップ.なぜダイバーシティをゲーム研究で扱うのか、という点が日本の文脈ではわかりにくいかもしれない.この背景には前回のDiGRA日本開催のあとで起こった事件により、ゲーム研究シーンが差別問題やオンラインハラスメント問題の最前線になり、ゲーム研究者の誰もが差別問題に無関心ではいられない状況がある.
ゲーマーゲート事件(日本語記事参照)でラディカルフェミニズムがネットで誹謗中傷にさらされ、DiGRAもラディカルフェミニズムの論文を出版している、ラディカルフェミニズムに支配された陰謀集団だという非難にさらされた.この結果、DiGRAはゲーマーゲートに対抗する学会声明を出している.また、大会にはInclusivity Policyを掲げ、人種差別、性差別、同性愛差別と対決する姿勢を示してきた.

Twitchでの教育実践ワークショップ

「Teaching with Twitch: A Practical Workshop」
Twitch.tvはGDCなど各種会議でスポンサーセッションを開催してが、DiGRAにも登場. ゲーム研究の中でもオーディエンス研究は増えており、Watch Me Playのような研究書も出版されているのでTwitchを学校で使おうというのは効果的な企業活動だ.

ゲームにおける廃墟ワークショップ

「Ruins in Digital Games」
参加者募集にわざわざHaikyoという和製英語を使っている、日本開催を意識した?ワークショップ.

メディアミックスとフランチャイズ理論

「Between Media Mix and Franchising Theory: A Workshop on the Theoretical Worlds of Transmedia Production」
DiGRA2019では大塚英志のメディアミックスの基調講演が予定されている.それに合わせて、日本におけるキャラクターのフランチャイズビジネスについて邦訳もあるマーク・スタインバーグらが企画するワークショップ.

メタファーベースのキャラクターデザイン

「Metaphor-based Character Design」
シリアスゲームのデザインを含む個人提案ワークショップ.

ゲーム研究におけるメタデータ

「Metadata in Game Studies: what it is, what we can do with it, and why it matters」
大学図書館の専門家(ライブラリアン)が組織するワークショップ.オーガナイザーには日本の研究者も参加.

IGDAビデオゲーム教育カリキュラムラウンドテーブル

「The IGDA Building Blocks of a Video Game Curriculum」
かつてIGDAの教育部会(Education SIG)はGDCやSIGGRAPHでワークショップを開催し、さまざまなゲーム開発者教育を収集し位置づけたカリキュラム・フレームワークを発表した.IGDAカリキュラムフレームワーク2008の日本語訳はIGDA日本ウェブサイトのトップページからもリンクされている.それから10年たち、ふたたびGDCなどでカリキュラムフレームワーク見直しのラウンドテーブルが開催されているが、DiGRAでも開催されることになった.

人種・ジェンダー・クィアネスで遊ぶシリアスゲーム開発ワークショップ

「Playing (with) Race, Gender, and Queerness: A Serious Game Development Workshop」
DiGRAがポリシーとして人種差別・性差別・同性愛差別に反対していることは先に述べたが、研究ではなくシリアスゲーム開発でそれを考えるのがゲーム研究の学会らしい.

日本語トラック 「Japanese Track」

DiGRA Japan(日本デジタルゲーム学会)が企画する日本語発表セッション.

国際学会のみどころ

ここまでDiGRA2019のワークショップなど同時開催イベントを簡単に紹介してきたた.国際学会の世界大会では、国際学会だけでなく外部団体の同時開催イベントだけでも幅広い活動を体験できる.これからさらに発表される学会情報に注目したい.

0 件のコメント:

コメントを投稿