以下に,現在日程が決まっている今年度のゲーム関連の主な国際会議を列挙してみた.(CGやHCIの専門学会でもゲーム関連トラックを用意している会議はリストに含めている.ただし,ペーパー審査を行わない学会,予稿集を出版しない議論中心のワークショップや作品コンテストは評価が難しいので除外している.)
- i3D 2011 San Francisco (ACM SIGGRAPH Symposium on Interactive 3D Graphics and Games) (2月)
- VS-Games'11 Athens (3rd International Conference in Games and Virtual Worlds for Serious Applications) (5月)
- FMX 2011 Stuttgart (16th Conference on Animation, Effects, Games and Interactive Media) (5月)
- CHI2011 Vancouver (5月)
- NOSSDAV 2011 Vancouver (6月)
- FDG2011 Bordeaux (6-7月)
- ISAGA2011 Warshaw (7月)
- HCI International 2011 Florida (7月)
- CGAMES USA 2011 (16th International Computer Games Conference: AI, Interactive Multimedia, Virtual Worlds and Serious Games) Louisville (7月)
- SIGGRAPH 2011 Vancouver (8月)
- NetGames 2011 Ottawa (8月)
- IEEE-CIG 2011 Seoul (8-9月)
- DiGRA2011 Utrecht (9月)
- IFIP ICEC 2011 Vancouver (10月)
- AAAI AIIDE 2011 Alberta (10月)
- ACE2011 Lisbon (11月)
- IGIC 2011 (International Games Innovation Conference) California (11月)
- MIG2011 (International Conference on Motion in Games 2011) Edinburgh (11月)
- SIGGRAPH Asia 2011 香港 (12月)
- IEEE WMUTE & DIGITEL 2012 香川 (2012年3月)
バンクーバーの国際学会招致
上記リストで気づかれた方もおられるかも知れないが,今年度,世界中でもっとも多くゲーム研究の国際学会が開かれ,世界各地のゲーム研究者が何度も足を運ぶ都市はバンクーバーである.西海岸のバンクーバー以外にも,カナダの首都オタワやアルバータ州の州都エドモントでも国際学会が開催され,今年度のゲーム研究シーンにおけるカナダの存在感は突出している.以下のプロモーションビデオを見てもカナダの学・産・官のそれぞれがゲームに力をいれていることがわかる。SIGRAPH2011 Vancouverのゲーム業界向けのプロモーションビデオ (ACM SIGGRAPH, 2010)
カナダのゲーム業界団体による産業プロモーションビデオ(ESA Canada, 2010)
カナダ連邦政府による海外資本向けのプロモーションビデオ (外務国際貿易省, 2011)
Global Game Jam 2011 バンクーバー会場の様子。Tシャツにスポンサーのロゴが並ぶ
巨大学会の招致効果
国際学会の招致には,オリンピックと同様に世界の大学都市の間での招致運動がある.今年のカナダがこの招致合戦に連勝して続々と国際会議を開催できているのは,やはり昨年のバンクーバー冬季オリンピック開催によるところが多いだろう.たとえばCHIやSIGGRAPHといった巨大学会の会場となるバンクーバーコンベンションセンターは,冬季オリンピックのメディアセンターだった会場で,オリンピックで世界をおもてなししたプロのノウハウが国際学会に生かされることになる。このアドバンテージは大きい.また市内の大学で開催される比較的小規模な専門学会もあるが,やはりバンクーバーオリンピックで整備された豊富な観光・交通・宿泊施設の情報を活用できる.これまで民間産業主体で成長してきたバンクーバーのゲーム産業は、オリンピック後の国際学会ラッシュで世界の第一線に飛躍することになるだろう.オリンピック以前からバンクーバーの民間主導による産業集積は報じられてきたが(「今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載」「バンクーバーにゲーム産業が集積する事情」「ゲーム産業を支える産官学のハッピーな関係」),これまで注目されてきたカナダの大学の役割は,企業へ人材を供給する「教育機関」としては注目されてきたが,最先端の研究情報にアクセスできる「研究機関」としてはあまり注目されてこなかった.しかし今年度はバンクーバーのゲーム専門家コミュニティがトップクラスのゲーム研究に触れる経験を積むことで,最先端の研究とゲーム産業との距離はさらにい近づくと考えられる.(おそらくバンクーバーに拠点をもっている日本企業は、今年は誰を送り込むか悩んでいるところではないだろうか。)
しかも,国際会議に集まるのは研究者だけではない.CHIやSIGGRAPHのような巨大学会では企業のリクルートのためのブースが並んでジョブフェアや個人面談を行っており,学生や求職者も参加することで人材活性化に一役買っている.日本ではこうした就業関連のオープンな場所がなかなかなかったが,2009年からCEDECに業界研究フェアが併設され,多くの参加者を集めているところだ.
また,巨大学会と同時期に小規模な大会が同時開催されるというコミュニティ間の橋渡し現象もみられる.たとえばSIGGRAPHの直前に同時開催イベントとして市内でHigh Performance Graphics 2011やCAe/NPAR/SBIM (2011 Joint Symposia on Computational Aesthetics and Sketch Based Interfaces and Modeling and Non-Photorealistic Animation and Rendering)が開かれる.たんにアメリカの学会を呼ぶだけではなくヨーロッパの学会との同時開催によって世界的なハブとして機能している.
さらに国際学会にともなう社交イベントも活発で,SIGGRAPHのBoFセッションでは大学の同窓会など参加者グループ有志に対しても会場を提供している.以上のように,巨大学会を招致することでさらに産業界や学生や関連学会など周辺コミュニティもバンクーバーに集めることが可能になっている.
日本のゲーム研究ハブ構想
かつて日本でもゲーム研究の国際学会を招致し,関連するイベントとリンクさせて相乗効果を目指したことがある.2006年に産学官で発表された「ゲーム産業戦略」では,ゲーム研究の世界大会DiGRA2007を招致するのにあわせて,東京ゲームショウとCEDEC2007の開催時期を近づける構想が日本語および英語で発表されていた....「東京ゲームショウ」を世界一の情報発信力とビジネス機能を有する場にしていくことは、日本がゲームやゲームビジネスの国際的な拠点として広く認識され、ひいては日本のゲーム産業が世界をリードしていくことにもつながるものである。このため、産業界は、国が中心となって検討を進めている「国際コンテンツカーニバル(仮称)」と「東京ゲームショウ」との連携を積極的に推進し、情報発信力や機能を抜本的に強化していくべきである。また、ゲーム開発者等向けの技術カンファレンスである「CESAディベロッパーズカンファレンス」(CEDEC)及び国際学会である「DiGRA2007」との積極的な連携などにより、産学官を挙げて「東京ゲームショウ」を強化すべきである。この2007年を振り返ってみると,東京周辺の大学人や企業のボランティアの力でDiGRA2007とCEDEC2007を(そして無料セッションも!)同時期同会場で開催している.バンクーバーのようにオリンピックを経験したプロのスタッフや施設も使わずに,ゲーム研究者が自ら秋葉原を案内する団体ツアーガイドまでつとめるなど,当時の東京周辺のゲーム研究者の総力を費やした学会招致だったと言える.
(「ゲーム産業戦略 〜ゲーム産業の発展と未来像〜 」)
しかし、今年のバンクーバーでゲーム研究の国際学会のクオリティは過去の日本開催の水準よりもさらに上にあがってしまったように見える.いまバンクーバーと他の都市が招致合戦でぶつかれば,会場ロケーション,宿泊施設,観光情報,ゲーム産業界からのスポンサーシップ,プロフェッショナルのマネジメント体制といった都市の機能そのもので太刀打ちできないだろう.もしかしたら、GDCがほぼサンフランシスコで開催されているように,バンクーバーが今後のゲーム研究集会のファーストチョイスになる可能性もあるだろう.
国際学会に行こう
最後にバンクーバー後のゲーム分野の国際学会について展望してみたい.これから日本にゲーム関連の国際学会を招致する際には、開催地の魅力を伝えるプランとそれを支えるコミュニティの(単独学会だけにとどまらない)層の厚さが求められるだろう.ただし,小規模の手弁当運営でも魅力ある国際会議を目指すのは不可能ではない.たとえば,今年度末に日本国内で開催されるDIGITELは決して大規模な会議とは言えないローカルな会議としてはじまったが,これまで記憶に残る開催案を出してきた.たとえばDIGITEL2007では開催前から公式ウェブサイトで台湾が輸出するMMORPGのキャラクター画像をフィーチャーし、その産学連携の姿勢が海外ゲーマーにも注目されるという珍しい学会となった.また昨年のDIGITEL2010では,米国NSFやシンガポールや台湾政府といった各国の研究予算配分機関から講演者を招いて「Research Policies on Technology Enhanced Learning」セッションを企画し,産業界と研究者とが世界の政策担当者と直接対話する場をつくった。この動画はいまでも公開されている.このように大規模ではなく会議運営のプロがマネジメントをするわけでもない会議でも,注目度の高い大胆な企画を立てることは可能である.
こうした国際会議の様々な戦略を知るためにも,ゲーム研究に携わる者は(産学官のそれぞれの視点から)国際学会の動向に無関心でいることはできない.質の高い発表が行われることはもちろん重要だが、そもそも発表者が集まって交流するためには、開催地の魅力そしてコミュニティの熱意と運営のクオリティを無視することはできないのである。
IEEE WMUTE & DIGITEL 2012 香川 (2012年3月)が開催されています
返信削除- http://wmute2012.info/
- http://www.jset.gr.jp/news/news_oth_110809.html
- http://www.facebook.com/pages/IEEE-WMUTE2012DIGITEL2012
高松からの情報発信に期待しています.
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/culture/photo.aspx?id=20110422000162&no=1