2013年3月25日月曜日

GDC2013アカデミック・プレビュー

 今年もサンフランシスコでGDC(ゲームデベロッパーズカンファレンス)が開催される.これまでIGDA日本では毎年学生向けのスカラシップやサイト日本語訳を通じてGDC情報を提供してきたが,本記事では翻訳では伝えられない背景も含めてアカデミック関連のプレビューをお届けする.

研究・教育機関とGDC

もともとGDCはゲーム開発者の集まりだったが,現在では研究者や教育者といったアカデミックなコミュニティからGDCに参加する人も多い.もっともわかりやすいのは,業界に就職したい学生や,社会で活躍する人材を送り出したい学校の参加である.その中にはGDCの有料ブースに出展する専門学校もある。それらの展示もGDCの一部ではあるが,本稿では範囲を限定して、プロの開発者向けの研究機関・教育機関からの発表に注目介したい.

歴史的な発展

GDCでアカデミックな研究機関・教育機関が活躍しだしたのは,いまから十数年前のGDC2002年の「IGDA Academic Summit」に遡る.この当時,パワーグローブのバーチャルリアリティ研究によって重厚長大型産業だったVR業界を震撼させたランディ・パウシュやラフ・コスターが結集して,学生から社会人そして先端研究までの産学の取り組みについての議論がはじまった.そしてこのあとSusan Gold(CEDEC Award2012ノミネート)がIGDA Education SIGを立ち上げ,開発者イベントから継続的な産学協力へと発展していった(このあたりの歴史はCG-ARTS教育レポートで話しています). 組織的な交流がはじまる一方で,独力でGDCで研究成果を発表する研究者も増えたが,ほとんど開発者の注目を集めなかった(過去記事「CEDEC2010アカデミック・プレビュー」で過去の批判を紹介している).例外的にインパクトがあったのは,マクゴニガルたちのゲーム研究ランキング(過去記事「Reality is Broken 勝手にブックガイド 」で言及している),大学院生によるExperimental Gameplay Project報告「ゲームのプロトタイプを7日以内で作る方法」(過去記事「 Global Game Jam 2010 を振り返る (後編) 」)など数少ない.

GDC2013でのEducation Summit

今回注目されるのは,2日間にわたるGDC Education Summitだ.公式説明(GDC2013 日本語情報)では以下のように説明されているが,いまいちわかりにくい.
2013年の GDC 教育サミットでは、現場で活躍中のゲーム教育カリキュラム作成者が学科や教室に持ち帰って使えるような、先進的で創意に富んだ教育手法を追求します。このプログラムは、既存課程・新設学科を問わずゲーム開発者育成に携わる教育者向けに、今後数年間に現場が直面するであろう問題について解説します。研究者や実践教育者にとっても新しいアイデアや研究成果に触れ、共有する場となることでしょう。またプロ開発者にとっても、協力は学校教室の中だけでなく仕事や生活のあらゆる面で成功への鍵となることを知る貴重な機会となります。
これまでの教育系サミットの成功例は,Serious Game Summitや上記のIGDA Acadmic Summitのように,GDCが場を提供して外部団体主導で開催するという性格が強かった.それに対してGDC Education Summitは,GDCブランドがついた,主催者肝入りのサミットである.この背後には「ゲーム人材育成は目玉企画になる」という主催者の意気込みが感じられる.なにしろ全米の教育機関には400校以上にゲーム開発者教育コースがあり,ゲーム開発やゲーミフィケーションの学位を発行したり,社会人むけの履修認定を出している(過去記事「ゲーム教育の大学間競争」参照.)
近年のGDCは,他団体の力を借りずに全米トップ学校の第一線の教員の協力を得てEducation Summitを企画している.ここでは日本語訳以外のセッションを解説する.
 「Beyond the Dialogue: Perspectives on Industry and Academia」は産学連携についてのセッションだが,タイトルに「対話を越えて」とあるように,たんなる企業と大学の相互交流ではなく,結果にこだわり戦略を問うものになる予定だ.メンバーはトップスクールのディレクター・副ディレクター級の現役教員に加えて,NaughtyDogから大学とインディー業界に転じたリチャード・レマーチャンド氏が予告されている.
 「Game Design Curriculum Deathmatch」はトップスクールが集まるサミットならではの企画.トップスクールのゲームデザイン教育のカリキュラムを持ちより,生き残りをかけたデスマッチを行う.メンバーは,アート系からサイエンス系まで幅ひろい教員が,自分の研究だけなくそれぞれの所属するトップスクールのカリキュラムについて語り,それに大学院出身者で現在はDeNAでリクルーターをつとめるJustin Hallがからむ.たとえば大学図書館でPlayStationの全タイトルコレクション(アメリカ版および日本版)を持ち,学生が試遊できるカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UC Santa Cruz),ハリウッドのお膝元でいちはやくゲーム研究を立ち上げ,企業提携のためのスペースを持っている南カリフォルニア大学(USC)などスケールの大きな話が聞けそうだ.
 ゲーム業界は中途採用が多いことが知られているが,先進企業は人件費が安く最新の技術をもらす若手の採用に熱心である.そのような企業はトップスクールとインターンシップ契約を結ぶとともに,いま教育機関で行われている訓練の内容について注目している.この動向に触れることができるのではないだろうか.

その他

最近では世界各地の学校がゲームジャム会場を開設しているが,ゲームジャムの会場を開く側を対象にしたしたイベントとしては,「Global Game Jam Organizers Roundtable」がある.ここでは,全世界のGlobal Game Jamの会場運営者が集まり,相互に意見交換を行う.これも学校関係者が多く出席している.

最後に

今月,尾形薫さんがなくなった.告別式はGDC13初日の3月27日.IGDA日本セミナーをはじめゲーム開発者のコミュニティに参加しながら,いくつもの学校で講師をつとめて幅広く活動されていた.教育現場の話と最近の国際会議の話の両方ができる人で,さらに最近の研究動向を追いかけるだけでなくどう対峙するかという二重の視点を持っている人だった.ネットワークのハブとなる人は,組織のリーダーとは違って目立つことはない.だが,いなくなってはじめてその役割が簡単に交代できないものだということを思い知らされている.ご冥福をお祈りします.

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