2014年9月29日月曜日

大学講義のオープン化とゲーム開発者教育

大学でのゲーム講義の発展

2010年に「「大学のゲーム講義をダウンロード」と題して、大学や職業大学院で行われているゲーム学・ゲーム研究の講義がオンラインで視聴できることを紹介した。あれから数年を経て、大学発のゲーム講義はさらに新たな段階に入っている。
 この数年で起こったもっとも大きな変化は、MOOCs(Massive Open Online Courses)ビジネスだ。世界のトップ大学の最新講義や名物講義を集め、さらに世界中から受講者を集めることで大学教育に大きなインパクトを与えた。それまでは講義資料をインターネット公開するのは物好きな教員がすることだったが、いまでは大物教授が自慢の科目をオンライン化したいと希望するようになり、講義動画にも特殊効果が入り教授もカメラ目線で語りかけてくるようになった(もちろんビジネスなので、有名教授でも面白い授業でなければ提供されない)。

MOOCsとゲーム開発

特にゲーム関係の科目はMOOCsでもドル箱だ。たとえば2014年秋だけでも、以下のMOOC科目がインターネット上で開講されている。


  • MITのIntroduction to Game Design (2014年10月22日開講)
    かつてMITで開催された初音ミク・シンポジウムで日本国内でも知られているフィリップ・タンらが講師をつとめ、MITゲームラボで研究開発しているゲームプロトタイピングツールを実際に使う。つまり研究の最新成果と教育の最新手法の両方が入っている。

  • アルバータ大学の Understanding Video Games (2014年9月より開講中)
    カナダのBiowareは現在はEA傘下のRPGゲームスタジオだが、創業当初はアルバータ大学の医学博士がたちあげたバイオサイエンス系のコンテンツ開発会社だった。この経緯からBiowareとアルバータ大学との結びつきはAIから文学部まで多くの領域にわたっている。
  • ヴァンダービルト大学のOnline Games: Literature, New Media, and Narrative (2014年7月から開講中)
    英文学科の学科長を永年つとめた文学部教授がトールキンと『指輪物語』そしてオンラインゲーム Lord of the Rings Online を扱い、文学研究から生まれたナラティブ分析のオンラインゲームへの適用などについて論じる。講義のほかにオンラインゲーム内セッションも予定されている。
これらの講義は単独で受けるだけでなく、さらに他の関連科目と合わせて受講してその分野を系統的に学ぶこともできる。たとえばMITのゲームデザイン科目は教育工学の科目とそろって提供されているし、アルバータ大学の科目も大学が修了証を発行するゲーム教育プログラムの一部である。

日本国内の取り組み

日本国内の大学でも、ゲーム関連の講義はよく見かけるようになったが、オンライン化には至っていない。たとえ単独の科目としては魅力的でも、大学がMOOCsに参加していなかったり、そもそもゲームとは関係ない学部で開講されているために他の科目とも関連がなく系統的体系的な学習が提供されていないといった問題がある。北米ではMOOCs以前にIGDAがEducation Summitを開催してカリキュラムフレームワークをまとめていたために、ゲームは複数年かけて系統的に学ぶ学問対象になっていたが、日本ではまだその取り組みは端緒についたばかりである。

世界的な動向に対応するには複数年のカリキュラムを持っている国内大学が積極的に教育プログラムを公開することが不可欠だが、まずは動画配信でなくても授業計画や教材あるいは教授法の共有を進めていくべきだろう。その試みとして、まず筆者が2014年9月から担当している学部生向けプログラムの科目のうち「ゲームデザイン」の教材に学外からでもアクセスできるよう実験をはじめた。対象はゲーム開発・ゲーム教育に取り組んでいる(もしくはこれから取り組みたいと考えている)人を想定している。
 残念ながら動画配信を行うだけの体制がないので、今年度はまず授業計画・講義スライド・小テストなどへのアクセスを提供するところからはじめている。この形態はMOOCs以前からオープンコースウェアと呼ばれていたものだ。なにしろ初めての講義なので未熟な部分が多くあるとは思うが、これを踏み台にして日本国内のゲーム教育の高度化につながればと考えている。そしてこれまでの国内講義のように単発で終わらず、複数年にわたる学問体系の提示につなげていければと考えている。
詳しくは以下のブログにて案内を開始しているので、ゲーム教育の今後に関心のある方にはぜひご覧いただきたい。なお今学期の授業で使うテキストは英語です。

(SIG-AC正世話人・アカデミックブログ主筆 山根)

1 件のコメント:

  1. MITの秋の科目は全国紙USA Todayでも紹介されました。
    MIT to offer free online courses in game design, ed tech. (October 10, 2014)
    http://www.usatoday.com/story/tech/gaming/2014/10/08/mit-moocs-free-video-game-courses/16876395/

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