2017年6月25日日曜日

2017年度アカデミックプレビュー

2017年度の展望として、まずまず日本(もしくは近い時間帯)で開催されるゲーム関連の学術イベントをあげてから、2017年以降の展望を行いたいと思います。

国内で開催される主な学術イベント

  • 情報処理学会 HCI・EC合同研究発表会(東京) Jun 1--2, 2017. 東京大学 弥生講堂アネックス
  • Chinese DiGRA 2017(香港) Jun 2--4, 2017. http://www.chinesedigra.org/conferences/2017conference/
    大会チェアパーソンは北米最大のゲーム国際会議FDG17のゲーム分析セッション座長もつとめており、英語圏の第一線の研究を意識していることがうかがえる。会場建物は東京オリンピックで有名なザハ建築。
  • DiGRA世界大会 3-6 July, 2017. オーストラリア http://digra2017.com/
  • 「東京藝術大学ゲーム学科(仮)」展  2017年7月21日(金)~30日(日)
  • CEDEC2017 Aug 30--Sep 1, 2017. 横浜
  • 日本デジタルゲーム学会 夏期研究大会 Saturday, Sep 2, 2017.
  • 情報処理学会 エンタテインメントコンピューティング2017. (東北大学) Sep. 16--18, 2017. http://entcomp.org/sig/?p=442
  • IFIP Entertainment Computing 2017. (筑波) Sep 18--21, 2017. http://icec2017.net/
  • IEEE DSAA Special Session on Game Data Science. 東京. Oct. 19--21, 2017. http://yokozunadata.com/events/GDS-DSAA2017/
  • インタラクション2018 2018年3月5日(月)--7日(水), 学術総合センター

学術イベントの傾向

 このように、国際会議から国内大会まで様々な目的の会議が開催される。また日本周辺では、香港やオーストラリアでも英語研究者が集まる場が開かれている。特に2017年度は東京ゲームショウに合わせてIFIPのEntertainment Computingが関東で開催され、IGDA日本SIG-AIの三宅氏が基調講演するというのは新たな傾向だと言える。これまで国際会議の日本の基調講演というと、すでに歴史的評価が定まった伝説的開発者が定番だったが、民間の第一線のゲーム開発者が講演する、というのはゲーム産学連携の深まりを示している。

ゲーム教育機関の新たな制度改革

2017年5月24日、今国会において学校教育法の一部を改正する法律案が可決された。これにより、新たに実践的な職業教育を行う高等教育機関「専門職大学(仮称)」の開設が可能になる。この動きをうけて、さっそくゲームの専門職大学開設のための教授の募集や博士人材の求人を出しはじめた専門学校もある。これは今年以降の日本のゲーム研究教育機関に対して少なくない影響を与えると考えられる。
 これまで日本ではゲームは職業訓練学校はあっても学位プログラムはごく少数しかなかった。(たとえばGDCで存在感を示すHEVGA(HigherEdGames.org)に日本から加入している教育機関は1校だけだ。これについてはIGDA日本によるGDC15報告会, GDC17報告会でも当アカデミックSIGから山根が報告している。) 専門職大学の新設は、このゲーム教育の国際ギャップを埋められるだろうか。筆者の見方では、従来の2,3年制のゲーム専門学校に対して4年制で学位審査を行うゲーム専門職大学が現れるという日本の2017年の変化は、2000年頃のアメリカの状況に似ている。その頃、伝統的な大学にゲーム開発専攻は無く、ゲーム開発を専門的体系的にに学べる教育機関はDigiPenのような「大学だとみなされていなかった職業訓練校」だった(参考記事)。
 だが近年の北米では大学と高度職業訓練校とが最先端のゲーム開発者人材育成を競いあっており、日本でも専門職大学をきっかけとして、北米でこの20年間に起こった学校の枠を超えた競争が生まれる可能性がある。
 なおその20年のあいだに、最先端のゲーム開発者教育は大学設置だけでなく大学院設置の重要性が認識されている。したがって専門職大学は大学院までを構想にいれるかどうかがゲーム分野と他分野では異なっている。大学院レベルでは、ゲーム専攻大学院ランキング2017年版でマルタ共和国のマルタ大学がいきなり23位にランクインするというグローバルな大学間競争も起こっている。このような教育機関の国際競争の中で、世界に通用する人材を育成する大学・大学院をつくることは日本の課題と言えるだろう。

補足: ゲーム研究の手引き

  昨年度の成果だが、メディア芸術連携促進事業として『ゲーム研究の手引き』が2017年度になってオンライン公開された。これは国内大学のゲーム研究者による仕事だが、名前から想像するような研究文献中心ではなく、かなり一般向けや学校教科書レベルの仕事まで幅広く記載している。
 特に、ゲームデザイン専攻で使われている英語教科書を「ゲーム研究者にとっても非常に重要な文献」と述べているのは印象的だ。昔はゲーム研究は専門書・学術論文を読みこむことからはじまっていたが、今日では最近のゲーム研究を反映したゲーム開発の大学教科書が出版されてゲーム研究の入り口になっている。たとえば物理学を学ぶ学生はニュートンやアインシュタインが書いた文献を読むのではなく、世界的なスタンダードになっている専門の教科書で学ぶ。そのように、どの学問分野でも、研究者を目指さない人も学ぶ価値のある優れた教科書があるものだ。デジタルゲームの分野でも、研究者を目指さない学生でも学ぶ価値のある教科書が注目されている。このことはゲームがすべての人のための学問になりつつあるということではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿