2020年7月13日月曜日

Games for Change FestivalプレビューとG4Cの歩み

 今年のゲームズ・フォー・チェンジ・フェスティバル(Games for Change Festival) G4C2020 は7月14日(日本時間14日火曜深夜)-16日(日本時間17日金曜早朝)に開催される.特に今年はパンデミックにともない無料オンライン開催が決まり,日本からも視聴参加が容易になった.そこで本稿ではプレビューを行う.

個性的なニューヨークのゲームシーン


 ニューヨーク市はゲーム産業の中でも独自の都市文化を持っている.年間を通じてゲーム関連の様々なイベントが開催されており,ゲーム企業だけでなく,中学高校・大学・美術館・NPO・eスポーツチーム・そして市民がそれぞれゲームイベントに参画することで多様なゲームコミュニティが形成されている.こうしたニューヨークのゲームイベントの中でも最大級のイベントが今回紹介するGames for Change Festivalだ.
 このG4Cフェスティバルは「サンダンス映画祭のビデオゲーム版」とも呼ばれ,大企業ができないようなゲーム,つまり娯楽以外のために作られたゲーム,小規模だからできるゲーム,非営利だからできるゲーム,そして社会的テーマを扱ったゲームのデモや開発者プレゼンが行われる.ただし大企業でも野心的なゲームはこれまでにG4Cアワードで表彰されており,2018年のゲームオブザイヤーはLife is Strange: Before the Storm,2019年のゲームオブザイヤーはNintendo Labo,参加者が選んだのは Discovery Tour by Assassin’s Creed: Ancient Egyptだった.

G4Cのはじまり: Peace Maker

もともとG4Cは1人の大学院生の課題作品からはじまっている.カーネギーメロン大学のエンタテインメントテクノロジーセンターはランディ・パウシュの『最後の授業』でも知られるゲーム高度専門家人材育成機関のパイオニアだが,そこで学ぶ学生が課題作品としてPeaceMakerというゲームを開発した.この作品は『ゲームデザインバイブル』第32章で「わたしが見てきた中で最も印象的だった事例」として紹介されている.これはイスラエルからの留学生が開発したゲームで,開発者はイスラエル軍の諜報活動に従事した元士官アシ・ブラクで,除隊後に留学したカーネギーメロン大学でパレスチナ出身の学生とはじめて議論した経験から,紛争解決を目指すゲームを開発したという.そして開発したゲームを販売するだけでなくイスラエルに持ち帰り,国会議事堂で国会議員を対象にしたプレイテストを実施する.この様子はNHK「おはよう日本」ワールドリポートでも報道されている.

 こうして社会問題を解決するゲームという研究をまとめたブラクは,その後,ニューヨークを拠点にゲームで社会問題を解決するための組織「Games for Change」をたちあげ,シリアスゲーム最大のイベントに成長させた.その後ブラクはG4Cのフロントマンからは一歩引いて,GDC2019期間中に新事業「Games for Change Accelerator」を発表している.これは社会的インパクトを与えるゲーム開発者と,投資家(社会投資家,XR投資家,ゲームの目利き)をマッチングさせるゲーム開発資金サポート組織だ.

G4C2020の注目セッション

GDC2020は無料配信されるが,視聴には公式ウェブサイトからのオンライン登録が必要だ.以下では個人的に注目しているセッションを紹介したい.
・「Educational VR Games: Lessons Learned」日本時間7/14 24:00-24:20
 『ゲームデザインバイブル』(原題: Art of Game Design)第32章で変容のためのゲームを提唱したジェシー・シェルによる,アメリカの政府資金助成も受けた歴史教育VRゲームの開発経験談.
・「Winning Against Pandemics: Games as Essential Tools for Planning and Response」日本時間7/14, 25:15-26:15
 新型肺炎のパンデミックにおいて,ゲームは外出制限下の「ひまつぶし」だと思われがちだが,パンデミックに勝つためのゲームも存在する.まさにいま求められているゲームの開発者たちが登壇する.パネリストはそれぞれ有名な開発者なので略歴をチェックしてほしいが,彼らのゲームでもっとも知られているのはFoldItだろう.すでに国内でも「ゲームが新型コロナウイルスを止める可能性。ワシントン大学の博士が『Foldit』のプレイをゲーマーに呼びかけ、タンパク質の立体構造を用いたパズルゲーム」(電ファミニコゲーマー2020)などで紹介されているが,新型コロナウィルスに取り組む前の実績を紹介した記事も多い.
 Nature Video: 研究者やハイスコアゲーマーへのインタビュー(字幕自動翻訳あり)

 TEDxVancouver - Seth Cooper - Play Games, Solve Disease

・「G4C Chapters: Asia-Pacific Launch Announcement」7/15, 4:35-4:40
 G4Cでは,新たにアジア太平洋支部がニュージーランドに開設される.日本のシリアスゲームの国際化ではアメリカに出品することを第一に考えてきた傾向があるが,これからは広域のコミュニティができるかもしれない.新支部についてはオープニングでも発表される予定だが,この枠では新支部長が紹介されるとともに,続くアジア太平洋ミーティングの案内も行われる予定だ.
・「Games and Moral Panic: 2500 Year History」7/17金曜日07:00 – 08:00
 最終日の目玉として,ゲーム研究のリーダーが集結したパネルディスカッションを紹介する.パネリストにはカナダ連邦に任命されたゲーム研究のリーダー,トップ校のデジタルヘルス研究ディレクター,HEVGA会長といったゲーム研究拠点の豪華メンバーがそろっている.
 彼らは自分の業績を語りにくるのではないし,いまさらゲームは世界を変えると自明のことを語るわけでもない.前回G4Cフェスティバル2018に集まったメンバーの再結成イベントと言えるが,2018年も「Moral Panic」がテーマだった.つまり,当時起こっていた社会的なパニックとしてのゲームに対する非難(米国内の銃乱射事件やWHOゲーミング障害をきっかけにしたもの)に対して学会トップが結集した行動だった.そこでは「なぜゲームは社会から攻撃されるのか」「ゲームを攻撃する人は何を考えているのか」を踏まえて,ゲームに関わる者はどう語るべきかを問いかけている.このパネルディスカッションは好評を呼び,翌年にゲーム開発者が集まるGDC19にも招かれて,講演動画や資料がオンライン公開されている(この内容はすでに本ブログで2020年1月に紹介している(YouTube動画を日本語自動翻訳字幕で視聴可能).GDC19では近代の焚書やスポーツ 禁止令から続くゲーム焚書について説明していたが,今回は2500年前にさかのぼるということでモラルパニックのスケールがさらにひろがっている.

その他

この他にも,先日IGDA日本でもウェビナー講演したホデントを迎えたゲーム産業における倫理問題,個人情報にまつわるプレイヤーの権利保護問題ゲーマー研究の難しさ,ナイアンティックの社会的影響部門長を迎えた都市計画のセッション,そしてテーマごとのFunder(ゲーム開発を公募して出資する機関の代表者)による説明会など,幅広い講演が予定されている.これだけの発表が一堂に会するのはG4Cならではであり,ぜひ講演スケジュールの中に面白そうな題名の講演がないかチェックしてほしい.

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