これは毎年カリフォルニアで開催されるGDC(Game Developers Conference)の主催者が展開する海外カンファレンスの一つで,先行するGDC, GDC Europe, GDC Austin, GDC Canadaに加えて,アジアではじめてGDCブランドのイベントが立ち上がったことになる.Meggan Scavi や Simon Carless など,本家GDCの今年のイベントディレクターがそのまま起用されており,単にブランド名を借りただけではない.(トレーラー動画)
すでにゲーム開発者向けの報道は主催者によってGamasutraで提供されているので,ここではアカデミックの立場から振り返ってみたい.
アカデミックと言ってもいろいろ見方があるが,ここでは(1)研究者の立場からの見どころ,(2)学生を社会に送り出す教師が考えておくべき数年後~10年後の予兆の2点をあげてみる.
ウェブサイトはGDCの統一デザインだが,サイドに武侠系MMORPGの広告が表示されるのがGDCとは趣きを異にしている.
GDCとリサーチコミュニティ
(1)現役のゲーム研究者にとって,GDCは単なるウォッチングの場にとどまらず研究サイクルの一部になっている.たとえばゲーム研究の中でも先鋭的なゲームAIの分野では「春のGDCでの発表を秋の国際会議で掘り下げ,書籍としてまとめる」といった研究サイクルが存在する(AIIDEアカデミックレビューのコメントを参照).いまのところアジアのゲーム開発シーンは論文や書籍には現れない.著者が調べた範囲でもGDC Chinaではそうした明確なムーブメントは見られなかった.しかしモバイルゲームやオンラインゲーム,グローバルゲーム開発といったトラックの事例発表は盛況であり,事例を掘り下げる研究者が参入することで欧米とは異なるアジア発の研究の可能性を感じた.GDCと学生
(2)学生の育成という視点から見ると,今回のGDC Chinaは前回のGDC China 2007よりも充実した取り組みが目についた.まず運営体制からして本家GDCと同様に学生ボランティアスタッフを募集して業界の一体感を醸成している.
そして大きく注目を集めたのがインディペンデント系のゲームを集めたIndependent Games Festival (IGF) Chinaである.審査員も印象的で,本家GDCのIndependent Games Festival委員長を務め,東京ゲームショウのSOWN(センスオブワンダーナイト)でも来日したSimon Carlessの他,ベンチャーのみならずActivisionやUbisoftの中国開発拠点からも審査員を招き,IEEE Computer 誌で産学共著論文を発表したXubo Yangなど,産業界を知る大学教授も加わっている.
IGF China のファイナリストには日本企業も名を連ねたが,将来活躍する人材を見るアカデミックの立場からはあえて学生部門のファイナリストに注目したい.ファイナリストのチームは以下の大学から参加している.
- Singapore Polytechnic (Singapore)
- Taipei University of Education (Taiwan)
- Communication University of China (China)
- Singapore Polytechnic (Singapore)
- Beijing University (China)
- National University of Singapore (Singapore)
この他にも期間中にはスクラム開発のチュートリアルも併設され,認定スクラムマスターの資格取得にも挑戦できる.スクラム開発の講習は近年のGDCでも定番であり,学生だけでなく社員再教育にも有用である.
GDC Chinaと政府の発信するメッセージ
2007年に開催された前回のGDC China とのもっとも大きな違いは,上記の企画よりもむしろ中国政府の官庁のバックアップを確立した点かもしれない.GDC主催者は数ヶ月かけて中国政府と協力関係を築いてきた.これまで中国政府機関は抗日オンラインなどシリアスゲーム開発を推進する一方でゲーム規制や許認可で下部組織間の連携がとれていないところがあったが,GDC China を通じてゲーム業界への明確なメッセージを発信するに至ったといえる.(と思ったが,GDC ChinaのあとにまたWOW許認可をめぐって監督官庁間の衝突があったようだ.)
おわりに
来年も上海でのGDC China 2010 の開催が予告されており,日本のCEDECやSOWNとをしのぐ強力なハブがアジアに出現したことになる.日本のセンスオブワンダーナイトも年々発展しており,今後が期待されるところだが,
GDC Chinaに見られる学生向けの実践教育や,英語メディアへのパブリシティという点は参考になるのではないだろうか.
文中で触れられている海外オンラインゲームをめぐる党内抗争について。
返信削除JETROの現地調査レポートや先日の新さんのレポートにもあるように、
http://www.jetro.go.jp/tv/internet/20090423652.html
海外から中国に参入するパブリッシャーにとって政府の許認可が死活問題となっていますが、
http://it.nikkei.co.jp/digital/column/gamescramble.aspx?n=MMITew000030102009
その抗争がGDC Chinaで表面化した形になっています。
時間順に整理すると、
○2009年10月11-13日: 文化部(MoC, Ministry of Culture)が支援によりGDC China開催
http://www.gdconf.com/news/bosslady_blog/octobers_gdc_china_is_the_only.html
○会期中に新聞出版総署(GAPP, General Administration of Press and Publication)がオンラインゲーム運営会社のジョイントベンチャーを規制すると発表
http://www.web2asia.com/2009/10/13/china-bans-foreign-investment-in-online-games-o-rly/
○GDC ChinaでMoCの役人が講演し、GAPPを批判
http://www.web2asia.com/2009/10/15/exclusive-clarification-from-the-ministry-of-culture-on-chinese-online-game-investments/
○MoCの役人は「Do not worry and take it easy」と海外からの投資参入にアピール。10月の時点でオンラインアップデートはMoC管轄、CD-ROM販売はGAPP管轄の模様。
http://www.gameculture.com/2009/10/15/chinese-ministry-culture-slams-rival-agency-over-online-gaming-authority
JETROのリンク先を間違えました。
返信削除http://www.jetro.go.jp/industry/contents/reports/