2020年5月25日月曜日

GGJ20以後のゲームジャムシーン

ブログ主筆の山根です.この4月から東京国際工科専門職大学のデジタルエンタテインメント学科に移り,4月から授業スタートしましたがまだ学生とは直接会っていません.さて,本記事では1月末のGlobal Game Jam 2020 をふりかえるとともに,その後のゲームジャムシーンをまとめたいと思います.


GGJ20ふりかえり

世界最大のゲームジャムイベント,Global Game Jam(以下GGJ)が今年2020年は1月31日金曜日から2月2日日曜日まで開催された.世界各地の会場で金土日の48時間で行われるGGJは,日本で最初に開催されたゲームジャムでもあり,多くの国内のゲームジャムのモデルにもなってきた.

防疫に直面したGGJ会場

GGJは年々大規模化している.本ブログでもGGJ2013の振り返りで,ゲーム開発者への支援が進む各国で数百人規模のメガ会場が生まれていることを報告した.その傾向は12年目のGGJ2020でも変わらず,世界の大都市では数百人単位の会場も開設された.しかし今年はそうした都市会場が,1月後半から新型コロナウィルスの蔓延に直面することになる. 日本国内の会場の中でも,秋葉原の電子デバイスGlobal Game Jam会場が参加者募集を停止し,閉鎖された.アジア・オセアニア地域のGlobal Game Jamで多くのゲーム開発者が参加したのは,1位が上海会場の377人,2位が香港会場の328人.3位がバンガロール,4位がメルボルン,5位がシンガポール.この中で,香港会場はいちはやく新型コロナウィルスに対応し,オンライン開催に切り替えながら世界全体でも8番目の参加者数を集めた.これは主催者の香港理工大学を中心としたスタッフの力が大きい.2ヶ月前にはデモ鎮圧のために封鎖されていた香港理工大学だが,日本の全会場を集めたよりも多くの参加者を集め,オンライン参加に切り替えて成功させたスタッフワークは見事というほかない.Global Game Jamは即席チームを組むところからはじめて作品の全世界公開と成果発表までを行うが,オンラインでもこうした短期チーム開発イベントができるということをいちはやく示したと言える.

GGJの現状

速報によれば,12年目のGGJ20は,48,700人以上のゲームジャム参加者が世界118カ国934会場に集まった. Global Game Jamの各地の様子は,毎年3月に開催されるゲーム開発者会議GDC(Game Developers Conference),そして同時開催されるゲームジャム国際学術会議ICGJ(International Conference on Game Jams, Hackathons and Game Creation Events)で報告されるのだが,残念ながら今年は新型コロナウィルスのためどちらも開催されず,グローバルな全貌がよくわかっていない. ICGJ2020は8月の大阪開催が決まったものの,やはり開催変更になり,大阪では開催せずオンライン発表になった.今年,GGJの成果を共有できる最大のイベントはここになりそうだ.6月1日までゲームジャム報告を受けつけているので,GGJの成果を発表したい人は(オンライン開催で旅費が不要なので)ぜひ英語報告を投稿してほしい.

GGJ日本会場の動向

GGJの日本の会場は今年も北海道から沖縄まで,新しい会場も加わって25会場で開催された(そのうち1つは上述したように閉鎖).昨年は札幌会場が100人を超えたが,今年はウィルスの影響か100人以上集まった会場はなかった.
 これらの日本会場関連のSNS動向は,「Global Game Jam 2020 日本語非公式まとめ」にまとめられているほか,参加者による国内会場報告も公開されている.大人から学生まで参加者の幅広さ,その土地その土地でのコミュニティを感じることができる.
ゲームジャムの特色でもある「仕事ではできないような新しい挑戦」としては,アップデートされたばかりのOculus Quest でのハンドトラッキングに早速挑戦した六本木Code Chrysalis会場You are a tool VRが目についた.
 日本の25会場の中には募集段階から特色ある会場も多く,シナリオライターと協力してノベルゲーム開発参加者を募集した(「どこでもいっしょ」20周年でもおなじみ)ビサイド立川会場,サウンドミニハッカソンによる「普通のゲームジャムではない」(『東京クロノス』でもおなじみ)MyDearest浅草橋会場,そして,香川県(「ネット・ゲーム依存症対策条例」でおなじみ)で初めてのGGJ会場である瀬戸内会場in香川もあった.筆者は前記事で書いたように香川に遠征して運営に当たっていたが,国内会場でも珍しいお寺でのゲームジャムで,ゲームを通して香川県民の方々の声に触れることができた.また終了後には,「ねとらぼ」による香川県議会事務局への質問で「香川県で行われるeスポーツイベントや、「Global Game Jam」などの教育イベントへの影響は想定していますか」という質問項目もあったように,県外からの注目も実感できた.こうした香川での収穫については別原稿で書きたいが,ゲームジャムに体現される「誰でも週末にゲーム開発者になれる」という現状認識を今後も広めていきたい.

新型肺炎下のゲームジャムシーン

GGJが開催されたあと,世界的なパンデミックが発生する.いまふりかえると,GGJの秋葉原会場が開催を断念したり,香港会場がオンライン開催に切り替えたのは,その後のゲームジャムイベントの先駆けだった.本稿の後半は,こうしたゲームジャムシーンの展望についてまとめたい.
 Global Game Jamは,初期の頃からオンラインでの参加には反対しており,会場に集まっって即席チームをつくるをつくることにこだわってきた.しかし,GGJ20の香港会場のようなオンライン参加や,参加前のある程度の打ち合わせを認めざるをえないだろう.すでにGlobal Game JamのU18部門である「GGJ NEXT」が今年は2020年7月にすべてオンラインで開催されることがアナウンスされ,ゲームジャム開催者とDiscordで助言するメンターとを募集開始している.昨年のGGJ NEXTは日本国内では釧路高専と秋葉原の専門学校で開催されているが,今年はオンラインで行うために事前準備期間をとっている.
 各地のゲームジャムも完全オンライン型が増えている.インディーゲーム配信サイトで,ゲームジャム開催スケジュールも運営するitch.ioがオンラインでのゲームジャム参加をアピールしている(itch.ioへの日本語参加案内はゲームジャム高梁2017資料を参照).こうして外出禁止期間でもゲーム開発に参加するためのハードルは低くなってきた.

連帯に向かうオンライン開発イベント

本ブログの親元であるIGDA(ゲーム開発者の国際NPO)も,Global Game Jam以外のオンライン開発イベントに協力している.4月のニュースレターでは「#EUvsVirus Challenge」への参加呼びかけが行われた. これはEU(欧州委員会)が主催するハッカソンで,新型コロナウイルスがもたらすさまざまな課題への解決策を探るために欧州全土で1万人以上が参加した48時間のイベントだ.開発するのはゲームに限定されないアプリやサービスで,ゲームジャムと違って必ずしも完成を目指さないが,新型コロナウィルスによる外出禁止の間にオンライン開発をするのではなく,新型コロナウィルスによるさまざまな問題を解決するためにオンライン短期開発に取り組もうという機運も高まっている. この全欧州規模のオンライン短期開発イベントからは実際に優れたサービスが生まれ投資を受けようとする事例も生まれている.だが,イベントの効果はそれだけでない.異なる専門分野の人とチームを結成すること,国境を超えてアイデアを競いあうこと,そしてオンラインで企画からプロトタイプ提案までの経験を積むことで,週末の間にこれからの生活に必要な学びや失敗を得ることができる.
 日本語圏でもすでにいくつもオンラインでのゲームジャムが行われているが,そうしたイベントで「国境を超えて違う分野の人とチームを組む」経験を積んだ開発者人材が,これからの社会生活にその経験を生かしてほしいと願っている.

Global Game Jamの新体制

最後にGlobal Game Jamの運営陣の大きな交代について紹介する.Global Game Jamのトップであるディレクター職に前IGDAトップのKate Edwardsが就任したことは前年から報じられてきた.さらに今春には,GGJの立ち上げメンバーの退任が発表され,メディアでも報じられた.Global Game Jam発起人のIGDAのスーザン・ゴールド(日本でもCEDEC Award受賞,GGJの原型となったNordic Game Jam(BABA is Youなどを輩出)をIGDAコペンハーゲンやゲーム研究者のイェスパー・ユールたちとともにたちあげ,さらにGlobal Game Jamたちあげにも尽力したGorm Leiは.長年つとめてきたGGJでの役職から退くことになった.世界を変えた先駆者を送り出して,GGJは新世代に交代することになる.

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