2012年2月17日金曜日

GGJ12 アカデミックレビュー (前編)

世界同時多発ゲーム開発

先月に速報でお伝えしたとおり,IGDAが開催するGlobal Game Jam(GGJ12)が今年も1月末に開催された.週末の48時間で開発された無数のゲームが公開されている.
日本でも以下の各会場でゲーム開発が進められ,その様子が公開されている.
さらに2月から3月にかけて世界各地でプレイテストやデモパーティーが開催されており,Twitterで#GGJ12を検索すると世界各地の盛り上がりに触れることができる.
本記事では,こうした個別の作品について評価する前に,まず今回のGGJの特徴や急速に普及した背景について考えてみたい.


基調講演はオールスターキャスト

GGJ公式サイトで基調講演(キーノート・スピーチ)について予告が出たのはGGJ12開催まで3週間を切った1月8日のことだった.
「Global Game Jam 2012のはじめにオールスターキャストの講演が行われる」(Global Game Jam 2012 to kick off with an all-star cast of speakers, set to break previous records)というアナウンスが行なわれ.そしてネット中継される基調講演の講演者として,"Will Wright, Baiyon, Gonzalo Frasca, Brenda Garno Brathwaite and John Romero"の名前と紹介ページ(英語)へのリンクが掲載された.
過去の基調講演を見ると,第1回のKyle Gabler(「グーの惑星」,Experimental Gameplay Project), 第2回のSte Curran(Edge magazine, Zoë Mode, 第3回のKeita Takahashi(「塊魂」ほか)と,毎回一人の人物に依頼していたのだが,今年はレジェンドがかわるがわる登場する長編講演となった.

ゲーム開発の経験がない人が基調講演を見てもわかるように,講演者は過去に自らがかかわったヒット作の名前を出していない.しかしここで誤算があった.講演者の仕事を知っている人は「超豪華なメンバーによる20分ものキーノートスピーチだけでも興奮してしまった」と基調講演だけでテンションがあがったのだが,情報を持たない多くの参加者は話の内容を身近に感じることができず「何のゲームをつくったのかよくわからないけど,どうやら偉いらしい人たちの長話につきあわされている」という印象をもってしまったようだ.これはもったいない.
そこで,まず字幕つきの基調講演ビデオを見ながらGGJについてふりかえってみたい.


冒頭のトレーラームービーが描く世界

最初の10秒間はスポンサー,そして15秒から1分30秒まではトレーラームービーだ.
このトレーラーは一般的なゲームジャムの流れを示していたのだが,この段階で「これ,自分の知ってるゲーム開発のやり方じゃない」と感じて拒絶されたような印象を受けた人もいるかもしれない.そこでまずは講演前のトレーラーについて解説しよう.
この1分30秒で示されているのは,得意分野の異なるチームメンバーが手分けして順番に開発を進める様子だ(48時間不眠不休で開発する必要はない!).ただし動くテスト版をつくったら, 全員を集めてテスト版の動作をチェックし,さらに練り直すという繰り返しの開発サイクルも描かれている.トレーラーの中でこの評価のシーンには「Quality Assurance」(品質保証, QA)と表示されており,このトレーラーでは開発チームがQAのサイクルを48時間のうちに2回実施する様子が描かれている.

従来の日本のゲーム会社では,このQAは単なるバグ修正のプロセスと考えられており,ゲーム開発の終盤に行われて設計の見直しにまでは及ばないことが多かった(「小さな会社が世界で勝つ法則 ヒット生む文化とは 6万本の大競争時代」 日本経済新聞 2011/6/29 参照 ). これは1990年代の北米でも同様で,過去のGDCやSIGGRAPHを見ると「ゲーム開発にアジャイル開発やラピッドプロトタイピングは有効か?」といった発表をみつけることができる.つまり,トレーラーで描かれているような早いサイクルで評価と設計見直しを同時に進めるようなゲーム開発手法が普及したのはこの10数年間のことだ.
この期間にラピッドプロトタイピングの開発手法を学校のゲーム教育に導入し,人材育成によってゲーム開発を変革を進めようとしたのがIGDAのEducation SIGだ.そしてこのIGDA EdSIGの呼びかけによって2010年からGlobal Game Jamがたちあがる.つまりGlobal Game Jamとゲームのラピッドプロトタイピング開発とは,同じグループによって推進されてきた兄弟のような関係にある.
GGJトレーラーでQAを繰り返し描いているのは,両者にこのような共通の背景をもっているためだ.たとえばGGJ参加者の中には,ものすごい開発ペースでゲームを公開してテストプレイ募集していた海外の会場があったことを覚えている人がいるかもしれない.おそらくその会場は,IGDAのゲーム開発者教育カリキュラムを推進してきた拠点校が関わっている.ゲーム開発者コミュニティがなかった地域にもGGJが普及した理由の一つには,こうした近年の教育改革との連続性がある.
もちろんラピッドプロトタイピングはあくまで開発手法の一つなので,実際のGGJでは別の開発手法をとっても構わない.48時間で開発サイクルを3回繰り返してもかまわないし,評価フェーズをいれず設計を変更することなく48時間を使ってもかまわない.ただトレーラーを見て「これは本物のゲームの作り方じゃないね」と思われた方は,この背景として主催者が新しいゲーム開発手法を研究開発し普及させてきたことに注意してほしい.

主催者からのメッセージ

基調講演ビデオの1:30すぎからは主催者であるIGDA代表のゴードンからの挨拶だ.(これから先は日本語字幕がついている.字幕が出ない人はYouTubeの画面から[CC]のアイコンをクリックしてほしい.)
ゴードンの挨拶の内容は昨年のGGJ11基調講演の冒頭挨拶と似かよっているが,デジタルゲーム以外のアナログゲームや「ゲームの範疇におさまらないもの」での参加についても強調されている.(このもってまわった表現は「××はゲームなのか」「そもそもゲームの定義とは何か」という過去のゲーム学の論争を意識したものだろう.ゲームの定義の議論に関心がある方はJesper Juulの2003年の論文が日本語訳されているので参照されたい.この著者のJesper JullがGGJ10でゲームの定義を問うようなジョン・ケージ的作品を出したことで,GGJの扱う範囲はさらに広くなった.)
こうしてGGJ12はゲームとゲームならざるものとのボーダーラインにあるようなものも受けつけることを鮮明にする一方で,コンピュータを使わない正統的なボードゲームの制作についても詳しい情報が提供されるようになった.
今年は福岡会場でボードゲーム部門の参加があったが,今後は日本国内でもアナログゲーム部門での挑戦やゲームの固定観念に挑戦するようなコンセプトの作品が増えることを期待したい.

基調講演の顔ぶれ

2分40秒からはいよいよ20分にわたるのオールスターの基調講演がはじまる.
この基調講演に感銘を受けたベテラン開発者を見て,「かつて大ヒット作をとばした偉い人」が講演していると誤解してはならない.講演者たちはいま現在も新しいことに取り組んでいる(人によっては派手に失敗して一時期ゲーム業界から姿を消していたという伝説もある)からこそリスペクトされているのだ.
続く後編ではさらに基調講演の内容について踏み込んでみたい.

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