2010年8月20日金曜日

ゲーム開発教育プログラムが文部科学省の今年度事業に採択される (速報)

世話人の山根です.

文部科学省は平成22年度「産学連携による実践型人材育成事業 専門人材の基盤的教育推進プログラム」の公募を行い、産業界と高等教育機関とが協力して人材育成に取り組む試みを募集し審査と予算配分を行っています。全国各地で教育改革にとりくんでいる大学や専門学校が応募したこの事業で,ゲーム関連の取り組みが採択されるのは容易ではありません.
今回、その採択事業の一つに選ばれたのが、東京工科大学を代表校とするグループによる「ゲーム産業における実践的OJT/OFF-JT体感型教育プログラム」の提案です.委員の正式な任命などの手続きがまだ完了していませんが,IGDA日本のメンバーも産業界と高等教育機関の橋渡しをする団体としてこの取り組みに参加しているので,教育・人材育成面での注目点を速報としてお知らせします.
本事業から、ますます高度になっていくゲーム開発に対する近年の教育界の取り組みをうかがうことができるでしょう.



IGDAの教育への取り組み

ゲーム開発者団体は以前からゲーム開発は数年かけて学ぶ学問だと考えてきました。本ブログの親団体であるIGDA(国際ゲーム開発者協会)はゲーム開発者による草の根の国際NPO団体ですが,その中でEducation SIG(教育専門部会)を立ち上げ,ゲーム開発者に必要な知識を産学連携で体系化する作業に取り組んできました.その成果は「IGDA カリキュラムフレームワーク」として改訂を続けており,2008年版の日本語訳は「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究 報告書」の付録としてオンライン公開されています.
また,IGDA Education SIG は世界同時多発ゲーム開発イベント「Global Game Jam」を推進しており,昨年度末に東京工科大学で行われた発表会にはIGDA日本からもSIG-AI世話人SIG-AC世話人が産学双方から参加し,東京工科大学での取り組みについて意見交換する機会を得ました.今回の東京工科大学グループの提案は,この時のGlobal Game Jam参加経験を年間の学校教育へとフィードバックさせたものです.

採択プロジェクトのポイント

従来の学校教育には,実践的なゲーム開発教育がうまくできない制約が存在します.今回の事業提案には,その制約を乗り越えるポイントがいくつか含まれています.以下に簡単にまとめてみます。

1) 大学の壁を越えた教育プログラム

現代におけるゲーム開発は,異なる分野の訓練を受けた専門家が協調して取り組むプロセスです.しかし,従来の学校教育ではゲーム制作をとりいれても「同じ学科」で「同じ学年」の学生だけで「担当教員が一人で授業設計できる一科目の範囲」の実習に取り組むことが一般的でした.こうした学校教育は本物のゲーム開発とは同じではありません。そのため,学校教育よりも企業で仕事をしながら学ぶ「OJT」が重視される理由になっています.
そこでゲーム教育の先進校では,学校の壁を越えた高度な教育プログラムを模索しています.たとえばMIT GAMBITやUSC Gamepipe Lab は,ゲーム音楽については学外のバークリー音楽院の映画音楽コースと提携しています.このような学校ごとの壁を越えた学習の場をつくるのは日本の学校が苦手とするところでした.しかしながら今回の東京工科大学グループの提案は,東京工科大学・日本工学院専門学校,日本工学院八王子専門学校が協力してゲーム開発を学ぶ試みで,大学院から専門学校,そして留学生も交えた実践的な学びを期待しています.

2) 集中的な学習スケジュール

日本の大学では,毎週一科目の短い授業時間が一般的です.しかしゲームのデザインからリリースまでを学ぶには,週一コマの授業で扱うのではなく,より集中的な体験が望ましいと言えます.そのためには,複数の授業担当者が協力して一つのプロジェクト型授業をデザインするか,もしくは他の授業の休講日に集中した実習時間を確保する必要があります.今回の提案では,年明けにゲーム開発イベントGlobal Game Jamに参加することを学習の目標に据えており,そのために必要なプロトタイピングを通じた集中的な学習が期待できます.

3) 成果を発信する体制

海外ではIGDA Academic Summitなどでゲーム専門学校や専門大学院がゲーム教育プログラムを発表しては相互評価を重ねてきました.しかし,日本国内ではどのようなゲーム教育プログラムが進められているのかを共有し改善するというサイクルが確立していません.ゲーム教育を行っていると宣伝している学校や研究室はあっても,そのプロセスを外部に発表する学校は決して多いとは言えないのが実状です.
その中で,今回の取り組みの代表校である東京工科大学はゲーム教育の取り組みについて発信をすすめており,たとえば2005年の文部科学省「現代的教育ニーズ取り組み支援」ACM SIGGRAPH ASIA 2009 Educators Program,そしてGlobal Game Jam 2010でも学内の取り組みを積極的に発信してきました.特に本提案では、年度末に学外の機関と協力しての成果報告が計画されており,参加校以外の学校や企業にも参考になると考えられます.

4) 世界基準で学びあう

このプログラムの学生達が参加するGlobal Game Jam では,2日間でゲームのプロトタイプを開発し,公式サイトにゲームをアップロードします.そして参加者はポイントやコメントをつける相互評価を経験できます.学生のうちから世界各地の学生やIGDAの開発者とコメントしあうことは貴重な経験になるでしょう.

CEDEC2010での報告

Global Game Jam に参加した海外のゲーム教育拠点の中には,社会人のゲーム開発者が参加して混成チームを組んで開発するところもありました.
彼らはゲーム開発拠点校と普段から協力関係にある地元のゲーム開発者で,IGDA支部やSIGGRAPH支部のネットワークや、拠点校の卒業生のネットワークによってつながっています.プロの彼らにとっても教育機関の開発イベントに参加することで,社内のOJTとはまた異なる学習効果を期待しているようです.
関心のあるゲーム開発者の方は,来るCEDEC2010でも東京工科大学メディア学部の三上浩司講師が9月2日(木)午後に「Global Game Jamへの誘い −48時間ゲーム開発プロジェクト「GGJ2010」参加報告−」というショートセッションで登壇する予定なので,プロ・セミプロ・インディーズの開発者からコメントが寄せられ、さらなる現場からのフィードバックを図れればと考えています。

以上、国内の教育機関の試みを速報として紹介しました。文部科学省や東京工科大学から正式な発表が出たら,追って追記します.

3 件のコメント:

  1. 東京工科大学 メディア学部 ブログにニュース記事が掲載されました。

    文部科学省助成の「ゲーム開発教育プロジェクト」2010年11月25日
    http://blog.media.teu.ac.jp/2010/11/25/470/

    Global Game Jam に向けて大学の枠を越えた学習体験が進んでいるようです

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  2. 文部科学省のポータルサイトから採択プログラムについての情報が公開されていました。
    http://gp-portal.jp/src/ippan/shoukaiPage.cfm?id=2255

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  3. 学園広報課からもプレスリリースが出ました。

    文部科学省の平成22年度「産学連携による実践型人材育成事業」に、東京工科大学と日本工学院専門学校、同八王子専門学校の共同プロジェクトが採択
    http://www.teu.ac.jp/press/19576/019585.html

    事業をすすめるだけでも大変なのに、グループ内で公式声名をまとめて広報も行うのは大変だと思います。ありがとうございました。

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