2012年11月25日日曜日
海外学術誌の日本のゲーム特集と国際ワークショップ
CEDEC2010キーノートスピーカーである石井裕は雑誌記事で「日本で大変素晴らしい研究をして、日本国内の学会に日本語で報告したとしよう。しかしそれだけでは、日本以外の「世界」から見るとその研究は存在していないに等しい。世界にインパクトを与えるチャンスもない。」と書いています.これはゲーム研究の場合でも同様で,たとえば学術論文を検索するGoogle Scholarで世界の人が日本のゲームを調べようとすると,英語圏のゲームに比べて件数が少ないし短い文英語献ばかりヒットする.つまり,日本のゲームは国境を越えてきましたが,日本のゲームについての学術的な評価や研究は国境を越えていないのが現状です.そこで,世界の誰にでも見つけやすいところで日本のゲーム研究を発信することが研究者に求められますが,日本のゲームについての研究情報を世界に発信する場所はまだ存在しません.
今回,日本のゲームについて研究論文を募集しているのはカナダのケベック州モントリオール周辺を拠点とするKinephanosというオンライン論文誌 (ISSN 1916-985X)の特集号で,英語またはフランス語で書かれた論文をオンラインで出版しています.
ケベックは州政府によるゲーム産業の誘致政策が有名ですが,それ以前から映画研究をはじめとする文化研究の拠点があり,たとえば2008年のホラーゲーム研究の国際会議(2009年に論集出版)はゲーム研究者の層の厚さを示すものとして日本でも話題になりました.
以下に,投稿募集の非公式日本語訳を掲載します.(最新情報は公式サイトで確認できます.) 日本のゲームに関する学術情報がほとんどないという現状を変えようという意欲が伝わってきます.なお,この日本ゲーム特集号の編集委員をつとめるMartin PicardとJérémie Pelletier-Gagnonの両博士は現在日本に長期滞在中で,来月12月7日夜に都内にて国際ワークショップ「Thinking Video Games in Japan: Towards Collaboration in Game Research」(「日本でビデオゲームを考える: ゲーム研究のコラボレーションに向けて」)にて発表する予定です.国際的なゲーム研究シーンに関心のある方はぜひご参加ください,(ワークショップには本SIGからも筆者が発表参加する予定です).
2012年10月5日金曜日
[速報] Global Game Jam 2013 (1月25-27日) 会場募集はじまる
IGDAが毎年1月最後の週末に開催するGlobal Game Jamが近づいてきた.今回もすでに参加者募集に先立って,ゲームジャム会場の登録がはじまっている.ゲームジャム会場を確保して登録するまでのやり方は昨年までと同じで,過去のGlobal Game Jamで参加者登録した人は同じIDでログインできるし,初めての人もユーザ登録してゲームジャム会場を登録できる.
ゲームジャム会場に必要な用意は過去のWiki(一部日本語あり)や新しいサイトのWikiにもまとめられているが,学校でも深夜営業のレストランでも民家でも登録して参加者を募集することができる.
今年も早速,沖縄でGlobal Game Jam Okinawa 2013 開催を目指す会や福島の有志が名乗りをあげており,北は北海道から南は沖縄までの同時多発ゲーム開発イベントが期待される.
申請した会場は定期的に公式サイトの会場一覧に公開されていく予定だが,前々回のGGJ11の報告でも触れたトルコ・ブラジル・タイといった新興国がさっそく加わっており,その一方で,カリフォルニア大学サンタクルーズ校,前回GGJ11で日本からの参加もあったシカゴのDe Paul大学といったゲーム教育拠点も引き続き参加している.
IGDA日本では毎年Global Game Jamについての日本語情報を発信してきたが,今年も多くの方々にGlobal Game Jam会場に参加し,あるいは開発現場からのネット中継を視聴して,新たなゲームがつくられる現場に触れてほしいと期待している.
付記: Global Game Jam をモデルにしてIGDA日本が開催した福島ゲームジャムについての報告を,来る10月13日(土)午前中に福島市にて行います.発表後にはGlobal Game Jam関連のご質問にもお答えできますので,福島周辺の方はぜひご来場ください.
2012年7月3日火曜日
国のゲーム関連研究予算の新たな展開
研究スポンサーとしての科研費
科学研究費助成事業(通称「科研費」)は,研究者に対して国が(正確には文部科学省及び日本学術振興会が)研究資金を配分する仕組みである.簡単に言えば,日本の研究予算の巨大スポンサーだ.これまで日本の研究予算ではゲームに関する研究予算枠は皆無だったのだが,今年の科研費改正によって日本のゲーム研究予算に変化がもたらされる可能性がある.この変化について考えてみたい.
2012年4月22日日曜日
GGJ12をふりかえって: グローバル化するゲームジャムの今後
過去最大のゲームジャムのインパクト
2012年4月9日月曜日
GGJ12 アカデミックレビュー (後編) : 基調講演から考える
基調講演その4: Will Wright
さて,前々回そして前回と続けて眺めてきたGGJ12の基調講演だが,18:20からはいよいよ最後の講演者,ウィル・ライトが登場する.2012年2月29日水曜日
GGJ12 アカデミックレビュー (中編) : 基調講演をめぐって
2012年2月17日金曜日
GGJ12 アカデミックレビュー (前編)
世界同時多発ゲーム開発
先月に速報でお伝えしたとおり,IGDAが開催するGlobal Game Jam(GGJ12)が今年も1月末に開催された.週末の48時間で開発された無数のゲームが公開されている.日本でも以下の各会場でゲーム開発が進められ,その様子が公開されている.
- 札幌会場: 作品一覧,発言ログまとめ,日本語ページ
- 仙台会場: 作品一覧,発言ログまとめ
- 東京工科大学会場: 作品一覧,発言ログまとめ
- 東京NII会場: 作品一覧,発言ログまとめ
- 京都会場: 作品一覧,発言ログまとめ
- 大阪会場: 作品一覧,発言ログまとめ
- 福岡会場: 作品一覧,発言ログまとめ, 日本語ページ
本記事では,こうした個別の作品について評価する前に,まず今回のGGJの特徴や急速に普及した背景について考えてみたい.
2012年1月29日日曜日
Global Game Jam 2012: 作品提出前の権利処理
誰もがダウンロードできるGlobal Game Jam作品
Global Game Jam はゲームをつくるだけのイベントではなく,自作のゲームを公開し共有する場でもある.Global Game Jamの終了時には,すべてのプロジェクトはゲームをアップロードし共有しなければならない.(ただし,48時間を過ぎても開発を続けて,修正版を追加公開することもできる.)
それぞれのゲームはタグやアチーブメントごとに検索することもできる.たとえば,自分と同じタグをつけたゲームを検索してアプローチの違いを比較し作品をつうじて学びあうこともできる.
公式サイトにアップロードされた参加作品は,オンラインで全世界に公開される.誰もがそのゲームをダウンロードしてプレイできるし,参加者同士で点数をつけたりコメントをつけあうこともできる.そこで問題になるのが権利処理だ.
2012年1月28日土曜日
Global Game Jam 2012 開催中
IGDAの日本支部であるわれわれIGDA日本でも,前回のGlobal Game Jam(GGJ11)の開催前に日本語情報を出してFAQや参加方法を日本語訳するとともに,日本語窓口を開いてきた.
今回も,10月に速報を出し,さらに参加者募集の日本語訳を出したところ,昨年以上の参加者が全国各地でチーム開発に参加している.
2012年1月10日火曜日
Global Game Jamの登場と注目を受ける背景
なぜ、Global Game Jamが注目すべき重要なイベントなのか、どういう背景から登場することになったのかを紹介している内容です。なぜ、インディゲームはこの10年で台頭してくるようになったのか、GGJに近いコンセプトへと発展することになったカーネギーメロン大学のプロジェクトなどを紹介させていただいています。
長文ではありますが、ご参照いただければ幸いです。
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■文部科学省ポータルサイトの 東京工科大学グループ成果報告「平成22年度 産学連携による実践型人材育成事業−専門人材教育推進プログラム−」 報告書「ゲーム産業における実践的OJT/OFF-JT 体感型教育プログラム」より
4.2 国内外のゲーム産業と教育事例
− GGJ2011 東京サイト 基調講演主旨 −
IGDA 日本支部 新 清士
今回開催される Global Game Jam2011 に、日本から150名もの参加があるということは、今後世界のゲーム史を見てみても、極めて重要な出来事として記憶される可能性が高い。
というのも、今年はゲーム産業、ゲーム開発において、大きなパラダイム・シフトがまさに起きつつある時期だからである。パラダイムとは「世界をどのように見るか」、パラダイム・シフトとは「世界の見方、とらえ方が変わる」ということである。パラダイム・シフトが起きているときは、それに巻き込まれている人は、パラダイム・シフトが起きていること自体自覚することが極めて難しい。
ゲーム産業に関しては、パラダイム・シフトは常に、新たなコンソールマシンの開発と、そのハードウェアの特徴を活かしたゲームタイトルによってもたらされた、いわば「企業側からの提案」として起こってきた。このパラダイム・シフトに関与するには、企業側にいなければ関与することはできない。しかし、Global Game Jamは、自分さえ望めば誰でもこのパラダイム・シフトに関与できるという、これまでに無かったイベントである。
Global Game Jamの重要度は、現状のゲーム開発をとりまく様々な問題や危機意識を共有する、特に現場のクリエイターから認知が広がってきており、これはユーザの不満とも合致する。企業ではなく、ゲームに実際に触れる側に充満したムードが、一気にシンクロクロニシティをよび、一気に勢いづくタイミングなのである。
といっても、Global Game Jamで、コンソール機の開発が行われるわけではない。参加者はいつも手慣れたツールや開発環境を使い、主にPC上で動作するゲームを作る。出来上がったゲームは専用のwebサイトにアップロードし、ユーザがこれをダウンロードしてプレイするというイベントである。しかも、これが直接ビジネスになるわけではない。
にも関わらず、なぜこの世界同時多発イベントがこれだけ注目すべき存在なのだろうか。これを理解するには、ここ10年ほどのゲーム開発をめぐる動向を俯瞰する必要がある。