CEDEC2010キーノートスピーカーである石井裕は雑誌記事で「日本で大変素晴らしい研究をして、日本国内の学会に日本語で報告したとしよう。しかしそれだけでは、日本以外の「世界」から見るとその研究は存在していないに等しい。世界にインパクトを与えるチャンスもない。」と書いています.これはゲーム研究の場合でも同様で,たとえば学術論文を検索するGoogle Scholarで世界の人が日本のゲームを調べようとすると,英語圏のゲームに比べて件数が少ないし短い文英語献ばかりヒットする.つまり,日本のゲームは国境を越えてきましたが,日本のゲームについての学術的な評価や研究は国境を越えていないのが現状です.そこで,世界の誰にでも見つけやすいところで日本のゲーム研究を発信することが研究者に求められますが,日本のゲームについての研究情報を世界に発信する場所はまだ存在しません.
今回,日本のゲームについて研究論文を募集しているのはカナダのケベック州モントリオール周辺を拠点とするKinephanosというオンライン論文誌 (ISSN 1916-985X)の特集号で,英語またはフランス語で書かれた論文をオンラインで出版しています.
ケベックは州政府によるゲーム産業の誘致政策が有名ですが,それ以前から映画研究をはじめとする文化研究の拠点があり,たとえば2008年のホラーゲーム研究の国際会議(2009年に論集出版)はゲーム研究者の層の厚さを示すものとして日本でも話題になりました.
以下に,投稿募集の非公式日本語訳を掲載します.(最新情報は公式サイトで確認できます.) 日本のゲームに関する学術情報がほとんどないという現状を変えようという意欲が伝わってきます.なお,この日本ゲーム特集号の編集委員をつとめるMartin PicardとJérémie Pelletier-Gagnonの両博士は現在日本に長期滞在中で,来月12月7日夜に都内にて国際ワークショップ「Thinking Video Games in Japan: Towards Collaboration in Game Research」(「日本でビデオゲームを考える: ゲーム研究のコラボレーションに向けて」)にて発表する予定です.国際的なゲーム研究シーンに関心のある方はぜひご参加ください,(ワークショップには本SIGからも筆者が発表参加する予定です).
投稿募集のお知らせ
編集者: Martin Picard and Jérémie Pelletier-Gagnon申込〆切: 2013年2月1日
Kinephanos(ギリシア語で運動+輝き)はウェブ媒体での英仏2ヶ国語の学術誌です.映画やポピュラーメディアに関する問題に焦点を当てながら,Kinephanosは学際的,分野越境的な研究を推進しています.本誌がもっとも重視しているのは映画,ポピュラーテレビ番組,ビデオゲーム,最新技術,そしてファンカルチャーです.研究のアプローチは映画研究,コミュニケーション理論,地域研究,哲学,文化研究,メディア研究です.
募集テーマ
スーパーマリオブラザーズ(Nintendo, 1985-2012),ファイナルファンタジー(Square Enix, 1987-2012),ポケモン(Nintendo, 1995-2012)といったゲーム作品やシリーズがグローバルなインパクトをもたらしたにもかかわらず,日本のビデオゲームについての理論的な取組は,日本のポピュラー文化愛好家の限られたグループの関心しか集めてきませんでした. 一見したところで,日本でつくられたビデオゲームを(いわゆるJ-RPGのように)おおざっぱな分類で語るのは難しいでしょう.しかし,特定の国や社会的文化的な文脈から生まれたゲームには何らかの違いがあるのではないでしょうか? もしも日本とアメリカとヨーロッパとでゲームの非類似度を測ったとしたら,それはどのようなものになり,ゲーマーに対してどのような意味をもつのでしょうか?日本のビデオゲームの特徴をより明確にする方法の一つとして,ゲームがきわめてダイナミックなメディア環境と幅広くつながってきた「メディアミックス」への視点をあげることができるでしょう.ビデオゲームのマンガやアニメなどとの強いつながりをもっている中で,この「メディアミックス」そのものについて,さらにビデオゲームがこのゴールの中でどのように位置づけられるのかについて検証をはじめられるかもしれません. Marc Steinberg が著書 Anime's Media Mix(ミネソタ大学出版局, 2012)の中で示したように,「メディアミックス」とは1960年代以降に大いに発達したポピュラー文化や産業界の用語であり,広告戦略にしたがって幅広いメディアの「プラットフォーム」(マンガ,アニメ,映画など)や大量生産商品(一般的に主要登場人物の「キャラ」のプロモーションを通じて)や魅力的な虚構世界を通じて相互接続された作品を展開するために用いられるメディアを指しています. 1980年代のこのメディア環境のはじめから,日本のビデオゲームはこのシステムによって形づくられ統合されてきました.このシステムが制作と流通の異なる様式がゲーマーにどう影響するのか,ゲーマーの(実際のゲームプレイ行為だけでなく)消費の様式や文化的な実践にはどう影響するのか,そしてゲームのコンテンツにはどう影響するのか,といった点に関しての研究はまだ端緒についたばかりです.
以上のような問題意識から,今回の特集号では,ゲーム研究の領域の中でも(トランス)ナショナルかつ(トランス)カルチュラルな側面について,理論と分析の両面における空白を埋めることを目指しています.確かに,ビデオゲームやポピュラー文化はますます学界内での関心の対象になってきてはいます.それにもかかわらず、日本における視点からのビデオゲームの検証を扱っている,あるいは日本のビデオゲームのありうる特性を考慮している出版物や研究は非常に少ないのが現状です.日本のビデオゲームについての理論が学術界に決定的に欠如している現状において,この特集号の掲載論文はゲーム研究,メディア研究,そして日本研究において前例のない貢献となるでしょう.
特集号では以下のトピックが含まれますが,これらに限定されるものではありません.
- 日本のビデオゲームと日本的なるものについて
- 「メディアミックス」でのビデオゲームの特性
- 日本のビデオゲームにおけるコンテンツ,テーマ,あるいは繰り替えされるモチーフ
- 日本のビデオゲームとオタクカルチャー
- 日本のビデオゲームの歴史やその国内市場研究(日本のビデオゲーム産業,ゲームセンター,日本のゲーマーの文化的実践やジャンル傾向,など)
- 「メディアミックス」におけるトランスメディアの循環
- 同人ゲーム,アマチュアによる「メディアミックス」製作
投稿方法
英語またはフランス語で1000語以内での要約を2013年2月1日までに以下の宛先に送ってください.picard.martin@gmail.com and jeremie.p.gagnon@gmail.com
要約には,題名,研究トピックと研究対象を記載してください.参考文献,著者氏名,メールアドレス,所属団体も含めて記載してください.
特集編集者から採択通知後(〆切の2-3週間後頃)に完全版の原稿を2013年7月1日までに提出してください.
編集方針
Kinephanosはピアレビューのウェブ学術誌です.すべての記事はダブルブラインドのピアレビューにて評価されます.Kinephanosは出版されたテキストについて排他的権利を保持しません.しかし,投稿原稿は以前に出版されていないものに限ります.テキストの別バージョンを他の刊行物に出版する際には,Kinephanosをオリジナルの出典として記載してください.製作上の要件
- 論文はMLAスタイルで書かれていなければなりません.最大6000語(参考文献を除くが注釈は含む)で改行幅は1.5行でTimes New Roman の12ptフォントを使ってください.脚注は本文中に…(1)のように埋め込んで,本文中の参考文献は(Jenkins 2000, 134)のように記載してください.
- Editorial Guidelinesで編集のための手引きを読むことができます.
- Kinephanos が受けつけているのは英語とフランス語の論文です.
- 過去の論文募集
以上
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