2011年2月21日月曜日

Global Game Jam 2011 を振りかえる

1月末に開かれた Global Game Jam 2011 は史上最大の開発イベントとなった.週末の間に世界中で数千人の参加者が各会場で開発チームを結成し、与えられたテーマに基づいたゲーム制作に取り組み,1500作品が公開された。
各会場によって運営ポリシーは柔軟に設定できるが,IGDA日本では昨年から世界的なゲーム開発拠点の様子を紹介するなどして,学生と社会人とがコラボレーションできるような会場運営を支援した.またUstream中継などでコンピュータの経験がない人でも独自のスキルで参加できることもアピールした.その結果,日本国内の3ヶ所で即席の混成チームによる濃密な開発の場を出現させることができた.
以下では、期間中からの記事をまとめて紹介する.さらに(読み通すには分量が長くなるが)これから開催される報告会や,今年の新動向についても述べたい.


会場からの報告 (1)

2011年1月28日(金),夕方からGGJがスタートした.初日には東京会場から以下の記事が流れた.
GGJ史上はじめての日本人による基調講演は衝撃だった!ただしレベルが高度すぎるので,IGDA日本では初めてプロトタイピング開発をやる人のために,第1回の基調講演の日本語字幕版も用意した(『グーの惑星』の作者がコスプレイヤーをdisっているところもあるが気分を悪くしないでいただきたい).
また公式ウェブサイトにはオフィシャルスポンサーからの特典も紹介された.

チームを決めたあと,何を作るか,プロトタイプをどう作るか,分担をどうするかがだんだん具体的になり,2日目の作業に入る.この間の様子は,各会場からUstreamやTwitterで中継された.
初日の深夜,東京会場では実行委員とUstream番組制作スタッフによる対談が異様な盛り上がりを見せる
アジアオセアニアの会場に続いて、中東やヨーロッパ会場も開始時刻の金曜夕方を迎える。政状不安定な光景が報じられたヨルダンのアンマンでもIGDA Middle Eastが無事に会場を切り盛りしていた.
初日から最終日まで各会場で機材や設備のトラブルが発生しするが,なんとか参加者の工夫で乗り切る.

会場からの報告 (2)

2日目の2011年1月29日(土) には以下の記事が出た.
福岡会場では突然市長が会場を来訪! うらやましい!

会場からの報告 (3)

そして最終日,2011年1月30日(日) .最後の力を振り絞る.(この夜の中継を見てGGJを耐久イベントと思われた方がおられるかもしれないが,GGJは徹夜での開発を目的としたイベントではない.主催者であるIGDAはゲーム開発者の生活の質(Quality of Life)の向上に取り組んでおり,快適な開発の実現を推進している.)
日本の会場がプロトタイプをアップロードし最後の成果発表会を終えたころ、ヨーロッパ会場が提出締切りを迎えており、南北アメリカはまだ折り返し地点といったところだった。先行している日本のゲームのアクセスカウンタは順調に伸びていった.

終了後の速報

翌週にはさっそく以下の報道や学会速報が行われた.
一つの視点ではなく、それぞれ別々の視点からGGJを評価しているのが面白い。この他にも、県外の大学から遠征したグループからも野心的な問題作や技術的なチャレンジそして相互学習などを評価する参加報告をいただいた。
そして、GGJが終わったいまもまだGGJの評価は続いている。

相互レビューのはじまり

主催者による総括はまだ行われていないが,前回の運営委員が作ったGobal Game Jam Newsletterのような刊行物が3月のGDCの頃に出るかもしれない.それよりも重要なのはプレイした人自身による評価だ.非商用ライセンスで公開されるゲーム作品は、実行環境を別にインストールするものもあるが、誰でもダウンロードして遊ぶことができる.
GGJの公式スポンサー団体の一つ,Gamesauce誌が優秀作を選んで表彰した.選ばれたのはフィンランド,南アフリカ,米国,ブラジル,ドイツ,フィリピンの会場の作品で,フィンランドの作品が最も多かった.ただし選考基準は"most commercially viable and promising projects"ということで,ヨーロッパで売れるかどうかを重視している。この基準では(昨年のJesper Juulのような)前衛的なゲームは選ばれることはないし,デバイスの可能性を追求する技術デモンストレーション的なチャレンジやオープンスペースでのグループプレイ,世界情勢を題材にするシリアスゲームも評価しにくい.したがって評価結果に一喜一憂するよりも、世界市場にでるプロトタイプの参考にしてほしい。

なにしろGGJ2011での新作ゲーム1500本はあまりに膨大なので,誰にも見てもらえない可能性すらある.そんな中,オフィシャルサイトで発表されるアクセス数やスコアの点数,あるいは自分と同じテーマのタグがついた作品をさがしながら参加者たちは相互に評価を進めている.
日本でも再び有志が集まり,以下の作品のレビュー中継が行われた.
開発者は開発者同士の視点からゲームを評価することもできるし,あえて視点を変えてゲームを評価することもできる.だが,プロトタイプを評価するにはどういう視点に立てばよいか,という方法についてはまだ確立しておらず,プロトタイプを相互に評価しあうメソッドについては今後掘り下げる余地があるだろう.(余段だが、ソフトウェア開発ではプロトタイプを上司に見せてきちんと評価してもらえるだろうかという開発者と管理職の断絶をテーマにした研究もある.)

参加者調査の実施

Global Game Jamへの参加はあくまで参加者による申請に基づいており,職業やゲーム開発歴や年齢性別などを確認していない.そのため,これまで信頼できる参加者情報のデータはなかった.そこで,カリフォルニア大学サンタクルーズ校とサイモンフレーザー大学のゲーム研究者が中心となって参加者調査を行うことになった.現在,統計調査に協力してくれる参加者を対象としたオンラインアンケート「2011 GGJ Participant Survey」が行われている.その内容は10分ほどで英文の選択肢を選んでいくものだ.参加者の中で,ある程度のアンケートには答えてもよいという方は,世界規模のゲーム開発者の調査という学術的な意義だけでなく来年のGGJの準備の参考にもなるので,ぜひ協力していただきたい.

2月下旬から3月上旬にかけての報告会

そして前回の記事で紹介したように,これから国内各地での報告会が行われる.
これは東京工科大学と日本工学院のグループが文部科学省の今年度の助成を受けて開催するものだ.このため来年度以降の開催予定は立っていないので,ぜひこの機会を逃さず最寄りの会場にて参加してほしい.

各地域のポテンシャルを示すGGJ

過去のGlobal Game Jam会場では、世界各地のゲーム開発拠点が会場になって参加者を集めていた.したがって,GGJの開催会場をみると,その地域で活動するゲームコミュニティの勢いが伝わり,その地域のポテンシャルが見てとれる.
そうしたGGJ会場から見える開催地コミュニティの勢いを伝えたのが以下の記事だ.
前者の福岡のレポートでは,福岡の地域ネットワークを背景として,学生がGGJ福岡会場を立ち上げ,その提案に大人が乗って地方政府も応援するという経緯を描いている.福岡会場で48時間でつくられたプロトタイプの一つはGGJウェブサイトからのダウンロードだけでなく,その後iTunesでも配信されたものもある.こうした価値を生み出せるクリエイターを応援する土地柄はうらやましい.
後者の生番組の記事も印象深い.GGJが開かれるという情報をキャッチした東京工科大学の学生を中心としたグループBaNyaKが記事の主役だ.彼らはゲーム開発ではなくUST番組の配信でGGJに参加し,GGJ東京会場の48時間開発中継のみならず,各会場の中継番組やゲストによる解説をネットで放送し,その放送を見たゲーム業界からさらなるゲストが来場するという盛り上がりを見せた.この事例はゲーム開発が関連領域にもインパクトをあたえることを示している。ゲーム開発によって、隣接する映像,サウンド,ネットワーク,プログラミングといったコミュニティを活性化させることは不可能ではない.
また,記事にはなっていないが,札幌会場も独特なコミュニティを形成していた.東京ゲームショウ2010の「センス・オブ・ワンダー ナイト」で注目された同コミュニティは,企業や大学を母体としない有志による草の根ネットワークのコミュニティである。GGJ以前から個人によるネットワークをつくりチーム開発を通じた学びを実践していたのはすごい.「この機会に限らず、学生や専門学校生や社会人やプロの方々と交流できる...(略)どうやら全国にもあまり例がない特殊な団体のようです」(GGJ感想)とも述べられているが,GGJというイベントに限らず,こうしたコミュニティ活動が維持できるのは、東京のような巨大都市ではなく札幌のような比較的狭い都市の強みではないかと思われる.

新たな動向

最後に,GGJ2011の新たな国際動向についてひとつ述べておく.Global Game Jamでは世界各地のゲーム開発拠点が参加者を集めたことは前述したとおりだが,今年は新興国に大規模な会場が出現した.これまで目立たなかったトルコ・ブラジル・タイで大会場が出現し,参加者数の上位に入っている.この広がりは、この数年でゲームを公表するためのインフラが整い、開発のための経済的技術的なハードルが急激に下がってきたことを反映している。かつて日本では『マイコンBASICマガジン』がゲームプログラマーやIT人材の育成に多大に貢献したが、Global Game Jamもまたゲームがどのようにして動くのかという様子やその素材をオープンにしたことで、世界各地の開発者を増やしつつあると言えるだろう。
さらに,大学に会場を開設して100人超の参加者が48時間を過ごすには,クリエイターや学生への技術インフラだけでなく制度的組織的な支援も必要とされる.それらの課題をクリアしたこれらの新興国からどのような人材が輩出されるのか注目したい.

2 件のコメント:

  1. 追記:
    1) 開発の時にどんなことを書いていたか、どんな道具をつかっていたかは福岡会場の写真集(英語説明つき)が参考になります。
    http://www.flickr.com/photos/pumpkinkaneko/with/5455394835/
    2) 会場ごとの公開作品を見てみたい、と言う方は国別の会場リストからチェックしてみてください。
    http://globalgamejam.org/Locations/country
    3) 開催年ごとのゲーム作品リストはこちらです。動作環境、会場、テーマ、サブテーマなどで検索することができます。
    http://globalgamejam.org/games
    Enjoy!

    返信削除
  2. 文部科学省のポータルサイトで東京工科大学グループの成果報告が公開されました。
    「平成22年度 産学連携による実践型人材育成事業-専門人材の基盤的教育推進プログラム-」
    http://gp-portal.jp/src/ippan/shoukaiPage.cfm?id=2255
    報告書や教材がダウンロードできるほか、リンクもあります。

    返信削除