2019年2月18日月曜日

2019年プレビュー前編: ゲーム開発者教育とゲーム学の歩み

ゲーム開発者教育の20年

本記事はGDC19, FDG19から見える2019年のゲームのアカデミックシーンを展望する予定だったが、2019年に起こる試みの新しさを理解するには、まず背景となるゲーム開発者教育が大学そして大学院で高度化してきたこれまでの動向を知っておく必要がある.そこでまず前編として、これまでの過去のゲーム教育の歩みをふりかえってみたい.



いまから十数年前の2000年代初頭、多くの国でゲームはまだ学問の対象とは思われておらず、一部の先進校がゲーム開発やゲーム研究を学問として教える一方で、職業訓練校でも高度化大規模化するゲーム開発に対応するために4年制課程の設立を進めていた.これらのバラバラだったゲーム開発者教育の先進校が集まる場をつくったのが、草の根ネットワークのIGDAだ.IGDAは2002-2003年にGDCやSIGGRAPHで先進校のカリキュラムをとりまとめて「ゲーム開発者カリキュラムフレームワーク」初版を発表した.この動きをまのあたりにして危機感をつのらせた日本勢の一部から、本ブログの親団体であるIGDA日本支部の設立へと動きはじめる.その様子は新清士「ゲーム産業と学術研究機関の関係」(2009)に詳しい.

そして、この動きが米国だけでなく国際学会を通じて世界の教育機関にひろがったのが2006-2007年だ.
まず専門家協会IEEEの学会誌、その名もずばり『Computer』の2006年6月号の巻頭特集で「次世代のゲーム開発者教育」がとりあげられた.そして翌年、米国計算機協会ACMの会誌『Communications of the ACM』でも、2007年7月号巻頭特集「ゲーム学の創造」が掲載された.IEEE-CSとACMというコンピュータ系の2大国際学会が学問としてのゲーム(特にゲーム開発必修科目を学ばないと卒業できない大学・大学院)を特集したことで、世界中のコンピュータ専門家がゲーム教育先進校の取り組みを知るようになった.
当時はこの記事は会員にしか読めなかったが、いまでは公開されている記事もある.IEEE-CS特集はZydaの特集イントロダクションがPDF/HTMLで無料公開されているほか、Fullertonの「Play-Centric Games Education」は著者自身が無料公開している.
そしてACM特集については、記事の「Source Materials」をクリックすれば日本支部による日本語訳PDFファイルがダウンロードできる.とくにランディ・パウシュの共著記事2本はベストセラー『最後の授業』にもでてくるカーネギーメロン大学ETCの話なので興味深く読む読者も多いだろう.

大学間競争の行方


さて、ここまでは10年以上前の話である.この動向が進んだ結果、ゲーム開発者教育はどこに向かうのかを次に考えてみたい.まず考えられるのはゲーム研究を看板にした大学間の競争である.この競争にも、いくつかの種類がある.
  • どれだけ大型予算を獲得したか
    (たとえば2019年2月、イギリスでは新たに60人のゲームAIの博士課程の大学院生を雇用することを発表した)
  • どれだけ大きな研究拠点を作ったか
    (たとえばフィンランドではCoE GameCult(The Centre of Excellence in Game Culture Studies)を設置し、博士人材が都市計画からポケモンGOの影響まで研究している)
  • 調査会社が毎年発表する専攻ランキングで高い順位を得る
    (昨年に本ブログ記事でも紹介したように、大きなゲーム産業がない国の大学でも効果的な投資で一躍トップランキングに躍進した)
こうした競争を経て、ゲーム人材育成先進国では博士人材が毎年輩出されている.だがその一方で、ゲーム人材育成に投資しなくてもゲーム産業が発展してきた日本はそもそも競争に加われないでいる.
 これから世界のゲーム開発者教育はどこに行くのか? ひょっとしたらゲーム開発者教育は誰もが知るべき基礎教養となり、どの分野でも活躍できる人材を輩出することになるのか.それとも、ゲーム開発者教育機関は最先端のトップスクールと、高い研究能力が求められない教養教育や職業訓練校とに二極化されるのだろうか.
後編では.こうした学術動向を踏まえて今年2019年の新展開について紹介したい.

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