2019年8月3日土曜日

DiGRA2019 in 京都 勝手にプレビュー(中編)

前編の記事では、2019年8月6日から京都で開催されるDiGRA2019国際会議について、本体のセッション以外のワークショップをプレビューした.本記事では、後編としてその後に発表された情報を日本でゲームに関わる方々にお届けする.

前回記事からの変更点: ゲーム展とRPGサミット

まず、前回予告されていたゲーム展 「Blank Archade」は開催延期となった.詳細は不明だが、DiGRA開催者内で準備が足りなかったのではないかという印象がある.
 前回追加されたプログラムもある.それが「RPG Summit」だ.これはJosé Zagalが最初に話すことからもわかるように、彼が中心となってつくられたRPG研究書『Role-Playing Game Studies: Transmedia Foundations』(2018)の出版を踏まえたものだ.本書はテーブルトークRPGからCRPG, JRPG, ライブアクションロールプレイング(LARP)まで様々なメディアにまたがるRPGを包括的にとらえた初の研究書で、DiGRAの学会名にもあるデジタルゲームの枠組みに収まらない広い分野にまたがっている.この国際執筆陣の一部がDiGRAに集結したわけだが、そもそもDiGRAはデジタルゲーム研究を扱う場でアナログゲームは主役ではない.そこで最近はじまったアナログゲームの論文誌 The Analog Game Studiesが場を仕切るかたちとなり、DiGRAの本体ではなく同時開催サミットという形で開催されている.こうした構成により、アナログゲームの発表もあるだけでなく、サミット終了後には1時間あまり英語RPGの試遊プレイの時間も設けられている.

大会発表から

次に、大会の本体とも言える、査読を通過して採択された発表について紹介しよう.(ただし現時点ではまだ論文は配布されておらず、概要だけの速報である.)
  まずプログラムを見て印象的なのが、発表者が幅広く、特にアジアや旧共産圏からの発表が増えたことだ.世界各地の研究機関でデジタルゲーム研究者が増えるにつれて、従来のゲーム研究ではとらえられなかった領域にも脚光が当てられている.共産圏のゲーム産業についてはこれまでにもハンガリーの『Moleman4』やチェコの『Gaming the Iron Curtain』が目覚ましい成果をあげている.そしてDiGRA2019ではポーランドからの発表が2件ある.これまでポーランドのゲームシーンは断片的な情報しか伝わっておらず、『ウィッチャー』に代表される優秀なゲーム開発者がいるとか、Global Game Jamでアタリゲームを作ったとか、世界的なeスポーツ大会でアメリカからもeスポーツ 研究者を招いてディスカッションするなどeスポーツの地位が高いらしい、とかスラブゲームジャムを開催した(スラブ主義と関係あるのか?)とか全体像がわかりにくかったので個人的に注目している.
 またアジア圏の発表も印象的だ.台湾から発表3件、そして大規模デモに揺れる香港からはなんとのべ数十人が発表.それも特定校だけでなく、香港の研究者と中国本土やオーストラリアの研究者の共同研究まである.つまり香港からアジアオセアニアにかけて、大学や行政区域を超えた広域の研究者コミュニティができて世界レベルの発表を連発しているのだ.これは10年前には考えられなかった.これは香港の大学の人材戦略の成果だ.日本でもかつて香港の大学への人材流出が話題になったが、ゲーム研究でも香港の大学はイギリスの大学でゲーム博士号をとって国際会議の委員もやっている第一線の若手をリクルートした.彼女は着任していきなりChinese DiGRAをたちあげ(本ブログでも2017年に言及)、ゲーム研究のレベルをアジアトップレベルに引き上げることに成功した.もちろん最先端の若手研究者が国内学会のトップについただけで国内学会のレベルがあがるわけではない.彼女は学会活動だけでなくゲームジャムの伝道師でもあり、Global Game Jam香港会場をアジア随一、世界屈指の規模に成長させた.この本人による香港ゲームジャムシーンの発表は日本の研究者ができなかったことを考えるためにも見逃せない.
 こうしたアジアや旧共産圏などの地域からの発表が増えると、デジタルゲームはまさに世界共通の文化財で我々もその一部なのだということが実感でき、ビデオゲームはアメリカ発祥とか日本の誇る文化だとか考えることに困難さを覚える.DiGRA2019の発表のなかにも「我が国のゲーム史 」「国民(ぼくたち)のゲーム史」そのものを作る=問題化する発表もあり、我々のゲーム観そのものを問い直す機会になることを期待している.

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