職場から遠く離れて
前編で見たように,FDGは人里離れた場所に200人以下の少人数が集まって行われてきた.今回もそれを踏まえて,開催地はギリシャ・クレタ島のハニア,しかも市街地の国際会議場ではなく,港にあるヴェネツィア共和国時代の遺跡が会場として選ばれた.近くの空港にはヨーロッパ各国からの国際便は通っているのだが,特に日本やオーストラリアからの参加者は乗り継ぎが大変で,2日前に出発しなけばならない.これでは少数精鋭にならざるをえない。会議の各セッション
国際会議はただ研究発表が続くのではなく,テーマごとにいくつかのセッションによって構成されている.FDG2013ではテーマはプロシージャルからシリアスゲームまでテーマごとに分かれ(公開プログラム参照),さらに以下のような形式で討議が行われる。- 論文セッション: 投稿された論文を査読者が審査し,採択された論文はまとめて出版され会場で配布される.著者はそれにもとづき,30分程度の発表を行う。
- ポスターセッション: 現在進行中のプロジェクトを査読者が審査し,採択されたらポスター展示スペースを与えられ,時間制限なしでデモンストレーションができる。
- ワークショップ: 研究者の提案により,特定のテーマについて少人数で討議するセッション.ゲームをデザインする「ゲームデザインワークショップ」のように議論以外の企画もあった。
- 博士課程コンソーシアム: 研究者の卵である大学院生の発表を集めて,若手研究者が助言を受けたり新たな取組を知るためのセッション。
- ソーシャルイベント: 参加者同士,あるいは参加者と開催地の交流イベント.多くの場合,審査員や参加者によるベストペーパーが発表される.今回は会場周辺の遺跡・文化財めぐりやギリシャ料理パーティーが開かれた。
ハードコアな研究ワークショップ
研究テーマにはサイクルがあり,はじめは世界で一人しかやっていないマイナーな研究テーマでも,参加する研究者が増えてコミュニティが育てばやがて大きな学派を形成し,最後には教科書に載るような定説になる.ここで難しいのが,研究者コミュニティを立ち上げたばかりの初期サイクルだ.先端的なテーマであればあるほど研究者は少なく,大きな国際会議を開くことができない.かといって1日程度の短い国際会議を開いても,世界中の専門家が足を運んでくれるとは限らない.こういう時に,大きな国際会議の中で特定のテーマのために半日や一日のワークショップを企画するとよい。 今回のFDG13のワークショップで注目されるのは,ゲームのデザインパターン,プロシージャルといった他の会議でもお馴染みのテーマが開かれただけでなく,世界初のワークショップがいくつも開かれて新世代の幕開けを感じさせた.それらを紹介しよう。(1) Global Game Jam ワークショップ
「Global Game Jam Workshop」は,日本でもおなじみ,Global Game Jam について研究者が集まる場である.これまでGDC期間中に Global Game Jam の会場責任者が集まるイベントは開かれているが,Global Game Jamを研究テーマにして発表する研究者が現れはじめた.彼らはお互いのことをよく知らずに別々の場所で発表してきたが,Global Game Jamの公式サイトでも研究者の参加募集とワークショップの予告が行われ,初のGlobal Geme Jam研究者ワークショップが開催された.筆者は本ブログで日本国内のGlobal Game Jamについて書いてきた記事や報告を引用して発表したが,同じようなテーマでヨーロッパ,アメリカ,日本で誰がどんな研究をしてきたのかが公開されたのは痛快であり,それほど差がついていないことに安心した。(2) EVE Onlineワークショップ
「EVE Online Workshop」は,ずばり 「EVE Online」(英語版、 日本語版)を専門に研究している研究者のためのワークショップである.特定のゲームタイトルで国際会議を開くことはなかなか難しいが,こうして国際会議の中のワークショップとして提案し採択されれば,一日中EVE Onlineオンリーの会議を(会場費無料で)開催することができる。このワークショップは開催決定直後からゲーマーコミュニティでも注目され,提案者は「CCP Game本社のスタッフを招きたい」と話していたが,残念ながら(DUST514のリリースがFDG会期中にずれ込んだためか)本社でEVE Onlineのゲーム内世界を研究しているスタッフの参加はなかったようだ。
参加してみたところ,このワークショップを提案したグループは大学院生を主体とした若手研究者のグループだった.当然ながら,彼らを指導する大学教員はEVE Onlineについてはそれほどくわしくない.するとその大学院生の研究が優れているのかどうかもわからない.そこで彼らは国際的な研究ワークショップを企画して発表を募集し,相互に評価することで,EVE Online研究がどこまで進んでおり自分の研究がどこに位置づけられるのかを明らかにしようとしている。その第1回に立ち会えたことは強く印象に残った。
ワークショップに続いて大会場ではパネルディスカッションも行われている。
(3) シリアスゲームワークショップ
シリアスゲームはいまや世界のゲーム開発者教育の定番になっているが,効果があったという成果発表ばかりで,研究者コミュニティはこれからどこに向かうのか,あるいはどのような研究が必要なのかという方向性がよくわからないと個人的には思っていた。そのためFDG2013で開かれた「Games for learning Workshop」もあまり期待せず他のセッションに参加していたのだが,あとで参加者の話を聞くとなかなか面白かったらしい。というのも,このワークショップはEU(ヨーロッパ連合)が推進する5つの研究プロジェクト(Siren、 ILearnRW、 C2Learn、 Emote、 eCute)が合同で企画したもので,丸一日かけてEU各国におけるシリアスゲームの産官学による大型プロジェクトの最新成果を一望できるサミット会議というべきに場なったようだ.EUが研究予算を出して複数の大型プロジェクトを推進していたとは知らなかった。
公募による論文セッションとは異なり、ワークショップではこうした独自の基準で発表者をそろえることもできる。
ワールドツアー化する学会ワークショップ
ここまでは新手のワークショップを紹介したが,多くのワークショップは一回限りではなく,ウェブサイトでも「次はDiGRA世界大会で」と次回の提案も予告している.つまり,来年のFDGを待つことなく,他の国際会議にもワークショップごと進出していこうという流れになっている。実際に,ゲームデザインやプロシージャルといったメジャーなテーマについては,DiGRA 2013、 AIIDE、 IEEE CIG、 CHI、そしてGDCのサミットといったいくつもの国際会議を渡り歩くワールドツアー状態になっている.逆に言えば、こうした研究ワークショップで公表された内容を調べてみるとGDCサミットの内容も見当がつくようになる。
ワークショップの資料と今後
ここまでFDG2013のワークショップを通じて,ゲーム研究の潮流についておおまかに紹介した.これらのペーパーは公式ウェブサイトからダウンロードできる他,ACM Digital Libraryにも収録される予定である。次回はFDG参加報告の最後としてポスター発表など残りのセッションやベストペーパーをとりあげ,FDGにおける産官学連携についてまとめたい。
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