デモ・ポスターセッション
FDGのデモセッションでは,発表者にそれぞれ展示スペースが与えられ,ポスターを掲示したりデモを試遊できるようになっている.そして参加者は半日かけてそれぞれの発表を見たりプレイしたり作者の説明を受けたりする.通常の発表セッションでは発表者にはあらかじめ決められた時間しか与えられないが,デモセッションでは半日つかって好きなだけ議論できる.特にゲームはプレイしなくてはわからないことが多いため,デモセッションをめざして投稿するゲーム研究者も少なくない.ここでは個人的に興味深かった発表を2つ紹介したい。
まずデモ発表「A Slower Speed of Light: Developing intuition about special relativity with games」(光の速さを遅くしてみた: ゲームを用いた特殊相対性理論の理解の開発)これは自分が光の速度に近い早さで動いたらゲーム内世界がどう見えるかというゲーム.どこかで見たような記憶があるとおもったら昨年に紹介されていた.相対性原理を理解するためのシミュレーションゲームがMITのメディアラボから(Techcrunch Japan, 2012年11月13日.ただしこの記事でメディアラボと書いているのは別機関MITゲームラボの間違い.またプロデューサーをMITの物理学教員と訳しているのはミシガン州立大学が正しい.)
また学会投稿と同時期に世界最大のインディーゲームのコンペであるIGF2013にも出展していた(A Slower Speed of Light). 光速に近づいた時に起こる現象の描写はガモフ「不思議の国のトムキンス」やカール・セーガンの「コスモス」でも知られているが、ゲームになってるところが新しい.大学でのゲーム開発者教育が進むにつれて、こうしたこれまでにないゲームが学会とコンペの両方に投稿される事例はこれからも増えてくるだろう。
しかしやってみたが,ゲームとしては面白くない.おそらくプロデューサーは物理学の教材以外の要素を排除したかったのだと思うが,これではIGFファイナリストに残れなかったのも仕方ないと思った. ただこの作品のプロモーションには感心した.
学生は自作ゲームのプロモーションについてよく訓練されている.MITのゲームラボのサイトではこのゲーム「A Slower Speed of Light」およびツールキットOpenRelativityのページがつくられ,開発者インタビューや記者が記事にするためのプレスキットまで用意されている.(ただし,ゲーム同様にどこが面白いのかを伝えるつくりになっていない.) なお,このUnity用ツールキットはFDG発表後にオープンソースで一般公開された(MIT Game Lab、ゲーム作成ツールをオープンソースで公開(2013/5/30, SourceForge.JP. 実際には非オープンソースのUnityも必要になる. )).ライセンスはもちろんMIT License. こうして実習でつくった作品を法的に有効なライセンスで公開するところまで大学院が指導しているいるのは実践的だ.
続いて,ポスター発表「Crowdsourcing Interactive Fiction Games」(インタラクティブフィクション的ゲームのクラウドソーシング).これはAI(人工知能)からナラティブの研究にアプローチしているジョージア工科大のEntertainment Intelligence Labグループによるもので,ポスターの謝辞に「DARPA(国防高等研究計画局)」の名前が出ていた.インターネットの前身である「ARPANET」の生みの親と言われる,あのDARPAである。つまり大学院生の研究資金のソースは米軍。DARPAはゲーム開発だけじゃなくゲーム研究への投資もやっていた!
DARPA研究を国外で発表して軍事機密漏洩にならないのか、クレタ島までの出張旅費を認めてくれるのかと思われるかもしれないが,実はこの研究でやっているのはAIによるストーリー自動生成で,軍事シナリオを扱っていない基礎研究である.この点についてはちゃんと学会当日にDARPA.MILウェブサイトでも発表があり,DARPAが(軍事シナリオではない)ゲームストーリーの自動生成に研究投資していることが公式に発表された.
この発表内容を見ると,DARPAは現在入手可能な製品に投資するのではなく,製品化される前のこうした基礎研究が蓄積されることが最終的に軍事訓練シミュレータの品質向上につながると考えているようだ.たしかに「America's Army」以来、米軍のシミュレータは市販のゲームエンジンが使われているので,ゲーム開発の品質向上は軍事訓練の品質向上につながる.これは私企業にはできない、あまりに長期的な先行投資だ.しかもこのDARPA発表では「ナラティブ」がキーワードとしてつかわれているのにも驚かされた.かつては文学理論やゲーム研究の用語だった「ナラティブ」がいまやDARPAの研究予算投資のキーワードにもなっていることが感慨深い.
博士コンソーシアム
学会の最終日には「Doctoral Consortium」も開かれた.これは大学院生(しかも2年間の修士課程ではなく,さらに長い博士課程の学生)を対象としたセッションで,彼らの発表を応援するものだ.博士課程の学生には,誰もそれまでに発表したことがないというオリジナリティのある博士論文が求められる.しかし,自分の研究がオリジナルで過去にないものなのか.自力で調べるのは限度がある.そこでこうした博士の登竜門に投稿し,ベテランからのコメントをもらう.ただし発表の多くは,博士論文の構想を説明しようとしてつめこみすぎの発表になっており,事前に予稿を読まなかったので理解がおいつかなかった.会場からのコメントも少ない.逆にいえば,そんなに叩かれなかったことは彼らの博士論文構想がある程度完成されているということなのかもしれない.
このセッションでは最後に司会者の女性が,「You are the future hope of game research!」と言ったのが心に残った.このセッションに来た人たちは,最新の成果を競うだけでなく研究の後継者を育てようとしている.これはぜひ日本の学会でも見習ってほしいところだ.
そしてまた来年
最終日は半日ゲームジャムなどのイベントもあり知人の研究者はそちらにも参加したが,自分は日本までの帰途に2日間近くかかるため,最後まで見届けられずに最終日の途中でクレタ島を発った. 全般的に少人数で開催するメリットを強く感じた国際会議だった.発表される研究は、産学連携というよりはEUやDARPAなどの産官学や軍産学の研究が目についたが、非常にフレンドリーな雰囲気のうちに終わった.私が見たところ,アジアからの発表者は日本からは私一人,あと中国から一人,シンガポールから一人.みな若手研究者で、彼らが帰国すれば,この会議の面白さが伝えられてさらにアジアからの参加者が増えるかもしれない.
また,前編の末尾で触れたように,日本のゲームレビューを分析する研究がゲームデザイン部門の優秀論文に選ばれた(著者の一人と話したところ,GGJ2012での日米合作「プロッパ(Proppa)」のメンバーだった)ことで,今後海外の研究者が日本のゲームを研究して発表する事例も増えていくのではないか.
会議終了後しばらくして,来年のFDG2014の投稿募集が発表された.会場はまた初期のFDG同様に豪華客船の中だ! 同伴者や子供連れの登録も可能!だが,安宿を選べないので宿泊料金が高く,しかも4月3-7日開催のため日本だと出張許可がおりるかわからない.(3月のGDCに行ったら許可でないかも. ) しかしゲーム研究の最前線を知るチャンスなので,投稿する人はいまから研究者向けの海外渡航援助制度の申込期限などを調べておこう.
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